第9話
*
次の日、俺は目を覚ましていつも通り学校に向かった。
今日、彩は休みのようだ。
撮影か何かだろうか?
「はぁ……」
俺は昨日の事を思い出してため息を吐いていた。
そんな俺の元に学がニヤニヤしながらやってきた。
何ぜそんな顔をしているのか、俺はわからなかったが、俺をからかおうとしている事は一目でわかった。
「なんだよ……ニヤニヤして」
「いやぁ~、今日あの子に返事をするんだろ?」
「は? あの子? 誰だよ?」
「またまたぁ~、昨日告白してきた女の子だよ」
昨日……昨日……あ!
ヤバイすっかり忘れていた……。
そう言えば昨日そんな事もあったんだっけ……。
告白以上に衝撃的な事があり過ぎて、すっかり忘れていた。
「やべ……忘れてた……」
「え!? あ、あんなに喜んでたじゃないか!」
「あ、あぁ……その後にあった出来事の方が衝撃的過ぎて……」
「生まれて始めての告白イベントだろ!? それ以上に衝撃的な事ってなんだよ!」
「あー……ドッペルゲンガー的存在と会ったとか?」
「そんな事あるわけないだろ、何を馬鹿なことをいってるんだ?」
「まぁ、そうだよな……」
昨日起こった出来事を正直に学に話しても、学は信じないだろうしな……。
「それより、今日は彼女休みなの?」
「ん? あぁ……そうみたいだな」
「残念だなぁ、なんか教室から綺麗な花が消えたみたいだよ」
「………」
「あれ? 無反応?」
「仕事とかだろ……」
「なんか冷たいなぁ……てか、なんか顔赤くないかい?」
「そ、そんな事ねぇよ!」
俺は慌てて顔を反らす。
気がつけば、俺は彩の事ばかり考えている。
昨日の彩の言葉や言動が、今でも頭から離れない。
諦めていた恋の炎が、俺の中で再び燃え上がり始め、気がつけば授業中も昼飯の最中も彩の事ばかり考えるようになっていた。
「彩……今日はドラマの撮影か?」
俺はSNSの彩の呟きを見ながら、廊下を歩いていた。 今日はドラマの撮影らしい。
主演ではないものの、彩の役は結構重要だ。
放課後で廊下にあまり人は居ない。
いつも一緒に帰っている学は今日は用事があると、早々に家に帰ってしまった。
「あ、あの!」
「ん?」
突然後ろから声を掛けられ、俺は反射的に後を向いた。
そこには、昨日告白してきた女子生徒が顔を真っ赤にして立っていた。
一体何のようだろうか……いや、用事なんて一つしか無いのだろうが……。
「き、昨日の返事って……いつ頃貰えますか!」
「あ……えっと……」
正直に言えば、直ぐにでも出せる。
しかし、こんないつ人が来てもおかしくない場所で、告白の返事を言うのは少し気が引ける。
「あのさ……ここじゃ何だから、階段のとこ行こうか……」
「はい」
いつまでも返事をしないのも可愛そうだしな……。
諦めさせるなら早い方が良い。
俺は告白を断る為に、廊下の隅の階段の踊り場に彼女を連れて行く。
「あのさ……ごめん」
「え……」
「俺……好きな人が居るんだ。だから君とは付き合えない!」
ま、最初からそう言おうとは思っていた。
彩への思いを断ち切れていない今では、付き合っても長続きしないと俺は考えていた。
まぁ、今はありがたい事に両思いなのだが……。
この子も可愛いし、スタイルも良い。
しかし、俺の一番は彩だ。
「その人って、緒方君と同じクラスの……成瀬さん?」
彩は周りの人間からは、芸名で呼ばれる事が多い。 皆、彩がアイドルだという認識が強いのだろう。
「なんでそう思うの?」
「だって……幼馴染みなんでしょ?」
「……まぁ、そうだけど……違うよ」
俺は嘘をついた。
そうだと言ってしまうと、彩に迷惑が掛かるかもしれないと思ったからだ。
「本当? だって、別な世界では恋人同士なんでしょ!?」
「あぁ、なんかこっちが恥ずかしくなるくらいラブラ………ん? ちょっとまって」
なんでこの子がそのことを知っているんだ?
昨日起こった出来事は、誰も信じてくれないと思い、俺は誰にも話していない。
彩だって今日は学校に来ていないし。
なんでこの子がその事を!?
「な、なにを……言ってるんだい?」
「とぼけないでよ! 私知ってるんだから! 貴方たちが結婚したら……世界が滅亡するって!」
ん? ちょいまち……なんか、話しが……ちがくね?
「え? 待って……なんで俺と彩が結婚すると、世界が滅亡するの?」
「もう一つの世界の私が教えてくれました! 向こうの世界の緒方君と成瀬さんは恐ろしい儀式を行う為に、この世界の緒方君と成瀬さんを結婚させようとしてるって!」
あれ? 結婚って言う点は合ってるけど、他がまったくちがくね?
「そして、その儀式が行われれば、この世界と向こうの世界が滅ぶって!!」
なんだ、その恐ろしい儀式!?
てか、この子も向こうの自分に出会ったって事か?
この子が嘘を言ってるとは思えないし、話しも少し違うが部分的に合っているところもあるし……。
「待て待て! 君も会ったのか? 別世界の自分と」
「うん……昨日の夜の事だったわ……」
彼女は昨日あった出来事を話してくれた。
昨日の夜、部屋に居た彼女の目の前に突如、別世界の自分だと名乗る、自分そっくりの女の子が現れたらしい。
そして彼女に俺に言った事と同じ事を言ったらしい。 そして彼女はその儀式を成功させない為に、彼女になんとしても俺を落として欲しいと言われたらしい。
「な、なるほどな……」
「そう! だから緒方君、私を選んで! じゃないと世界が!」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ! そんな事を言われても、本当にそうかわからないだろ?」
まぁ、それはユートとアーネにも言えることだ。
あいつらが嘘をついている可能性もあるし、あっちの世界のこの子が嘘をついている可能性もある……。
「でも……別の世界でも、自分なんだよ? 疑うなんて……」
「まぁ、そう思うのはわかるが……」
彼女は薄ら涙を浮かべながら、俺の方を見ていた。
きっと俺に振られたという事実に、彼女は傷ついたのだろう。
告白断るって……結構辛いんだな……。
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