第24話 軍人、決闘する
「さて、ここなら誰の迷惑にならんだろう」
空き地にたどり着いたレギオスは、兵たち共々ついてきたアレンにそう告げる。
周りには取り囲むように十数人の兵が立っている。
それだけでなく、騒ぎを聞きつけた町の人間も大勢ついてきていた。
「がんばれ! レギオス!」
「おうおう、帝国の人間なんてやっつけちまえ!」
声援を送るシエラの横には、ジークがいる。
騒ぎを聞きつけ駆け付けてくれたのだ。
そしてレギオスの頼みで面倒を見てくれている。
これなら何かあっても、シエラに手を出される事はないだろう。
安心したレギオスは改めてアレンの方を向き直る。
「さ、いつでもかかってきていいぜ」
手招きをするレギオスを前に、アレンは憮然とした顔で言った。
「……おい、剣を貸してやれ」
「ハッ」
アレンは兵に命じ、レギオスに剣を放り投げる。
その行動にレギオスは驚き目を丸くしながらも、受け取った。
「丸腰の相手を斬るわけにはいかんからな。使え」
「……なんだよ、妙に礼儀正しいじゃないか」
「正々堂々と倒さねば、我が正義を証明できん。……皆の者、けして手を出すな! 一対一の男同士の戦いだ! 貴様も仲間に手を出させるんじゃあないぞ!」
そう言い放つアレンを見て、レギオスは少し毒気を抜かれた。
あのゼオンの息子なのでどんな輩かと思ったが、父に似ず意外と男らしい奴である。
苦笑しながらも剣を拾い、抜いて構える。
「暑っ苦しいが、お前みたいなやつは嫌いじゃないぜ。……かかってきな」
「では……いくぞぉぉぉぉぉ!!」
雄叫びを上げながら切りかかってくるアレン。
レギオスはその斬撃に剣を合わせ、軽く弾く。
きぃん、と軽い音が響いた。
「ちっ! だがまだまだ!」
アレンは弾かれた剣の軌道を変え、横薙ぎ一閃。
それもレギオスは即座に反応し、撃ち落とす。
打ち合いは徐々に激しくなり、剣戟の音が辺りに鳴り響く。
「く……やるではないか!」
「そちらこそ、しかしまだまだ若いな」
レギオスは少し身体を捻って剣を躱すと、足払いを仕掛ける。
アレンはバランスを崩し転倒しかけるが、咄嗟に体勢を立て直した。
直後、反撃すべく振り向こうとし、動きが止まる。
首元に剣を押し当てられていたのだ。
刃の触れた首筋からは、つぅと血が垂れていた。
「気が済んだか?」
動けぬアレンに、取り巻く人間たちの哀れみの視線が突き刺さる。
そこには当然、連れてきた兵たちのもあった。
――恥をかくから兵たちは連れてこない方がいいぜ、というレギオスの言葉の意味を知ったアレンの顔が、羞恥と怒りで赤く染まる。
「……貴様ァァァァァ!!」
アレンは咆哮を上げると、その体勢のまま剣を振るう。
自身が傷つく事も厭わない行動に首筋が軽く裂け、血が噴き出た。
その迫力にレギオスは剣を緩め、弾き飛ばされてしまう。
剣が地面に突き刺さった。
「コケにしおって! くたばれぇぇぇ!!」
渾身の一撃が丸腰のレギオスの眼前に迫る。
ギャラリーたちは目を閉じ、悲鳴が上がる。
――が、その軌跡が大きく逸れる。
がきん、と鈍い音を立て、アレンの剣はレギオスの足元にあった岩石に当たりへし折れた。
折れた剣は岩石にくっついていた。
「何ぃ!? 一体、何が……!?」
突然の事に戸惑うアレン。
レギオスは剣に『電撃』を放ち、電気を帯させ強力な磁石としたのだ。
同時に、足元に落ちていた岩石にも同様に電撃を流し、これも磁石化。
剣は岩石に引っ張られ、軌道を逸らしたわけである。
「悪いが、そう易々と負けてやるわけにはいかなくてね」
隙だらけの横っ腹に、レギオスは固めた拳を叩き込む。
「が……っ!?」
深く、沈み込んだ一撃により、アレンは白目を剥く。
完全に気を失ったアレンは、地面に崩れ落ちた。
「筋は悪くない……が、まぁあと十年ってところだな」
レギオスはそう言って、視線を兵たちに移す。
「さて、お前らはやるのか?」
「い、いいえっ! 滅相もない!」
レギオスの問いに、兵たちは一歩下がる。
怯えた表情で首をぶんぶんと横に振った。
レギオスは拳を下ろし、兵たちに背を向ける。
「……なら終わりだ。こいつを連れて帰りな。そしてあのクソ皇子に伝えろ『警告を破ったな』と」
低い声でそう言って睨みつけると、兵たちは震え上がった。
「ひ、ひいっ!?」
慌ててアレンを担ぎ上げると、駆け足で去っていく。
見送るレギオスに、背後からシエラが抱きついてきた。
「レギオスっ! 大丈夫? 怪我、ない?」
心配そうに顔を見上げるシエラの頭を撫でる。
「ないさ。見てたろ?」
「うん、でも相手は剣を持ってたから……」
「当たらなければどうという事はない」
事実、アレンの剣はかすりもしなかった。
それなりの使い手ではあったが、レギオスとでは剣術だけでも圧倒的な実力差があった。
「おう、お疲れだったな。レギオス」
「あぁ、ジーク。シエラをありがとう」
「へへっ、いいってことよ。だがまぁ、何度か飛び出そうとしたときは焦ったけどなぁ?」
そう言ってジークは、シエラの肩に手を載せようとした。
だが振り払われ、睨まれる。
「そういうのはやめて。私はレギオスのものなんだから」
どよっ、とシエラの言葉に辺りがざわつく。
「ちょ、おま……」
レギオスが慌てて周りを見渡すと、ジークを含めたギャラリー全員が目を点にしていた。
シエラは変わらず、レギオスにぎゅっと抱きついていた。
「あんな小さな子を……」
「ロリコンよ、ロリコン……」
「私、ちょっとカッコいいかなって思ってたのに……」
ひそひそ声が聞こえ、レギオスは慌てて訂正しようとした。
「いや、違うんです。この子は俺の娘で……」
「血は繋がってない、けどね」
だがそれを覆すシエラの言葉に、ざわめきは一層大きくなる。
「やっぱりロリコン……?」
「血の繋がらない娘って……自分好みに育ててたってこと……?」
「いやらしいわぁ」
「ちょ……ま……!」
訂正しようとするも、ギャラリーたちはレギオスから離れていった。
伸ばした手が所在なく空を切る。
「……苦労するな、レギオス」
ジークはレギオスの肩に手を載せ、慰めるのだった。
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