第7話 軍人、罠を仕掛ける
「ふぃ……全く、アイツにも困ったもんね」
呆れ顔で首を振るテレーズ。
だがその表情はどこか嬉しそうである。
大きく伸びをしてまた仕事にとりかかろうとした、その時である。
「今の、レギオス殿ですかい?」
「ひゃっ!?」
同僚の男が声をかけると、テレーズは慌てて飛び上がった。
「き、聞いてたの!?」
「聞こえたんですよ。そんな大きな声で喋られたら、嫌でも聞こえちまうってもんだ。レギオス殿からの通話が来るまでは、ずっと、むすーっとしていたのにねぇ。連絡が着た途端にぱぁっと嬉しそうな顔をしちゃってまぁ。喧嘩するほど仲がいいってのは本当ですなぁ。いやぁ見ているこっちが恥ずかしい」
「ぐ……っ!」
からかうような男の言葉に、テレーズは真っ赤になりながら口ごもる。
「そ、そんな事どうでもいいでしょ! それより実験はどうなったのよっ!」
誤魔化すように声を荒げるテレーズに、男は苦笑しながら答える
「あーーー……はいはい。順調は順調ですよ。データも取っときました」
「ん、ご苦労様。どれどれ」
男から受け取った紙をじっと見つめるテレーズ、その細い眉が歪んだ。
「……やはりイマイチね」
「そうですねぇ。水車を回して電力を得る……というのはいいアイデアだと思ったのですが、やはり魔力を直接電力に変換するのに比べると……」
どちらともなく言葉を失い、うーんと頭を捻る。
電力を魔術からではなく、他の動力から得る……というのは理論上は可能であっても、その性能はまだまだ実用には程遠い段階だった。
「魔術師頼りは今回みたいになった時に困るから、出来れば避けたいんだけどね」
「雷の魔術師が重用される所以ですな。幸か不幸か我々にはレギオス殿のような優秀な人材がいましたし」
「しかもレギオスの電力は他の
「バカ皇子って……まぁそうですね。電気がなくて困ってるのはあの方でしょうから」
「あいつのオモチャって電気製品ばかりだからね。さぞ退屈しているでしょうよ。全くその時間で勉強の一つもすればいいのに……まぁその分実験資金はいっぱい出してくれてるから不自由しないんだけどね。……さて、お仕事再開しますか」
「レギオス殿成分も補給し終わりましたしね……おっと、そんな怖い顔をしたら美人が台無しですよ」
男が大笑いしながら仕事に戻るのを睨みつけ、テレーズも仕事に戻るのだった。
■■■
「おー、届いた届いた」
翌日、レギオスの実家に大きな箱が沢山贈られてきた。
中身は蓄電器と草刈り機である。
テレーズが風の魔術で運んだようで、その全てにパラシュートが付いている。
普通の術者にはとても無理な話だが、テレーズほどの使い手ともなれば風の魔術でこのくらいの重さのものを運ぶくらいは造作もない事だ。
当然風のガード付き。鳥に突かれて破れる心配もない。
この輸送手段は戦時は輜重を運ぶのに重宝したものである。
レギオスは遠くにいる友にありがとうと呟いた。
「なにそれ? レギオス」
「おぉ、シエラか。こいつは蓄電器さ」
「ちくでんき……?」
首を傾げるシエラに、レギオスは説明をするため蓄電器の上蓋を開けた。
両手でやっと抱えられるほどの箱に入った二つの水槽、その間に配線や機械が張り巡らされている。
「この水槽は片側に電気が溶けやすい水が入っていて、もう片側には電気に溶けにくい水が入ってるんだ。電気ってのは溶けにくい方へと流れる時に発生する。本来ならそれで終了なんだが、この蓄電器は充電を行う事で何度でも使えるんだ」
「へぇ……」
わかっているのかいないのか、シエラは首を傾げながらぼんやりした返事を返す。
それよりも、といった風に話題を変える。
「ところで昨日通話してたのって、テレーズさん」
「ん、おう。よくわかったな」
「……わかるよ。レギオスってば楽しそうだったもん」
そう言って頬を膨らませるシエラに、今度はレギオスが首を傾げた。
「で、何のためにこいつを送ってもらったかというと、だ。……ついてくるか?」
「……いく」
不満げに頷くシエラを連れ、レギオスは蓄電器を背負い山へ入っていく。
山奥には等間隔に木の杭が地面に刺さっており、先日購入した銅線がそれに巻き付けられていた。
「なにこれ?」
「獣避けの罠だよ。これに触ると電気が流れるんだ。それの維持のために蓄電器を使う」
そう言ってレギオスは蓄電器に取り付けられた銅線に手を触れた。
ばちん、と火花が爆ぜ、取り付けられた電力ゲージがすごい勢いで増えていき、あっという間に満タンになった。
充電を終えたレギオスは銅線の先端に蓄電器を括り付け、起動スイッチを押す。
すると銅線に薄ぼんやりとした光が通った。
「これに触れると魔獣だろうが痺れて逃げちまうって寸法さ」
「でもこれ、知らない人が触れたら危ないんじゃない? 山に入る人とかいるんでしょう?」
「……そういえばそうだな。よし、銅線の周囲を魔術でコーティングしておくか」
レギオスは銅線に触れ、銅線に魔力を纏わせる。
これで軽く触れた程度であれば、電撃は走らない。
コーティングを終えたレギオスが、銅線に触れるとぱちぱちと刺激が走る。
「うーん、確かにそこそこ痛いな。いいアドバイスだったよシエラ」
「……」
シエラは無表情のまま、足元の石を拾いひょいと投げた。
石が銅線に当たった瞬間、ばちゅん! と音を立て強烈な光を発した。
地面に落ちて転がる石は黒焦げになっており、白い煙を上げていた。
高い魔力抵抗を持つレギオスならともかく、普通の人間がこれに触れた場合はどうなるかは言うまでもない話である。
シエラは頭を抱え、肩を落とした。
「……よかったね。殺人事件にならなくて」
「ん、なんのことだ?」
「なんでもない。はぁ、鈍感。……念入りにコーティングした後は、ギルドに行って討伐隊の人たちに罠の事言っておいた方がいいよ」
「むぅ、なんだかわからんが、わかった」
シエラはレギオスの鈍感さに、ため息を吐くのだった。
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