第88話
時間は過ぎていく。初めての遊園地、アトラクションの風景をそれぞれに焼き付けて。玲奈の笑顔と共に、舞い上がる自分の感情さえも投射する。
それでも常にそこから一歩下がったところで、俺は現実を見なければならなかった。
終わりが、近づいている。
デートの終わりが。
この世界の終焉が。
この関係の終末が。
俺のすべきことはここにある。その悲しみも残酷さも理解しているつもりだ。その上で今日一日を全力で楽しんできたんだ。非モテの俺としてではなく、玲奈の彼氏の俺として。
玲奈の願いを叶えて、世界を元に戻す。
願いがなんなのか、という部分は大事な部分ではない。そもそもを辿れば「閑谷圭」と付き合うことこそが目的だったはずの世界。そう考えると俺の考えでは、玲奈の願いとはこの関係の継続なのだ。
彼氏と彼女であり続けること。
それはある意味で誰かのパパとママになることと相違ないのかもしれない。あの少女、もしや中々に鋭いか?
まあ・・・しかし、
残念ながらそれは叶わぬ願いでもある。
世界を救うことは俺と玲奈の関係を終わらせることになるわけだ。
だから俺のすべきことは、
「ずっと君のそばに居るよ」
と言うことで、その関係を終わらせることだ。
玲奈を騙し、世界を救うことだ。
それがこの七日間の意味。俺の意義。
だがなんだろうう。このもやもやは。いや、もやもや何てレベルじゃない。胸が張り裂けそうなこの気持ちは。
嘘をつくことは、彼女を騙すことは、この七日間でいくらでもあったはずだ。そもそも彼氏自体が俺にとっては嘘なのだから。
じゃあ、この気持ちは何だ。
俺を引き裂くこの感情はなんなんだ。
わからない。
分からない。
分かろうと、していない。
玲奈に手を引かれて、俺は観覧車の前に居た。
「ここの観覧車すっごい景色が綺麗なんだよ?」
にこにこしながら、可憐に笑う、その笑顔にまだ胸が痛む。
なんで、なんでだろう。
遊園地の閉園時間を考えると、この観覧車が最後の乗り物になりそうだ。
ここで、すべて決まる。
世界が終わり、世界が救われる。
俺の目の前に居る彼女が幸せになることで、世界が救われる。
彼女の願いを、消えゆく世界に置き去りにして偽りの希望を見せ続けて、この世界の幕を閉じる。
俺は、俺は・・・
拳をギュッと握りこんでから観覧車に二人で乗りこむ。
「ふふ、圭君もしかして高いところ苦手?」
慎ましく微笑みながら俺を揶揄う玲奈に軽口で返す。
心が、一気に重くなる。観覧車が落ちてしまうかもなんて、冗談めいたことを考えていた。
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