五日目の混沌 part2

第29話

放課後、俺は校門に出た。空は濃いオレンジ色に染まっている。

俺はいつものように二人を待つことにした。


しかし、


「・・・」


ニコニコしている女子生徒が俺の事を見ている。


「・・・・」


朱色のポニーテールをふわりと揺らし、まるで植物でも愛でるような笑顔でこちらを見る彼女。


「・・・・・・」


「閑谷先輩、私の事見えてますか?」


見えないわけがない。


「今日一日ずーっと先輩のこと見てたんですよ?」


休み時間も昼休みも放課後もどこからか視線を感じていた。見ていた、なんてものじゃなく監視に近い何かだったけど。


「昼休みは屋上で橿原先輩とあんなにイチャイチャしてるなんて驚きました。」


それは今でも俺が一番驚いてる。二人仲良くお弁当食べながら談笑できるなんて非モテ世界じゃ想像も出来なかったし。というか見るな恥ずかしい。


「そうかと思えば、放課後は佐藤さんとイチャイチャしてるし・・・」


・・・放課後は風紀委員の佐藤の手伝いを頼まれていた。この世界で佐藤と再会してからは、部活に入っていない俺の放課後を存分に活用されているのもまた事実ではある。だがイチャイチャなど、断じて・・・


・・・まあ、佐藤は校内巡回の際ずっと俺の腕に抱きついていたけれど、


「暗くて怖いので、これくらいさせてください。」


と言っていた。彼女のことばを信じよう。


「あ、そうそう。授業の合間は大体保健室でグレっ、いえ、お母さんと楽しくお話されてましたよね。」


先程からこの海堂シオンという女性は俺に釘を刺そうとしているのだろうか。俺の一日を総括して何になるというのだ。


てか、「グレっ」ってなによ。


放課後、風紀委員のお手伝いを終え、校門で二人を待っていると、海堂シオンはそこにいた。まるで俺を待ち構えるかのように校門前のベンチに腰掛けて、俺が来ると立ち上がるのだ。いや、貴方と待ち合わせはしてないよ?


「さ、行きましょうか、先輩。」


「いやいや。」


それ完璧に待ち合わせしてる人のセリフなのよ。事態が呑み込めてないからね。


というか、朝、長濱先生から紹介があっただけで、それ以上何も会話をしていない俺にはほぼ初対面の人物と変わらない。


マッハでコミュ障発揮である。


「え?どうかしました?」


特徴的なポニーテールをまたも揺らしながら不思議そうな顔をする。小動物みたいな可愛らしい雰囲気が漂っている。・・・転校早々多くの男に詰め寄られるのも無理はない気がする。そのせいかは定かではないが、顔に疲れが出ているようにも見える。


「いや、俺は橿原と佐藤を。」


待っている、とは言えなかった。なんだか、それが当たり前なだけで、約束しているわけではない。約束にしてしまったら何だか違うと思った。


「あ、その件は大丈夫です。」


「?」


何が大丈夫なのだろう。


「二人には私からお話して先に帰ってもらいました。」


「???」


何を言っているのだろうこの娘は。俺の頭の上に大きな?が浮かぶ。


「ですので、今日は私に付き合ってください。閑谷先輩。」


俺の手を取ってつぶらな瞳でこちらを見つめてくる海堂シオン。小さな手に、しっかりと力が込められていた。左右に分けられた髪が夕方のそよ風に靡いていた。


カムバック俺の日常。


俺は内心諦めながら平穏を祈った。

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