第30話

「うわー、ここのタピオカとっても美味しいですね!先輩もどうぞ!」


「・・・いや、それ・・・」


「え、どうかしました?」


シオンが俺に差し出すタピオカドリンクにはストローが一本だけ刺さっている。しかもシオンが飲む際に使ったストローである。


・・・どう考えても間接キス・・・


「あ、間接キスとか先輩気にしちゃう人ですか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・」


俺が恥ずかしくなってしまった。いや、気にするでしょ普通。


そうして口ごもっている俺を見たシオンは悪戯な笑みを浮かべながら尚もずいっとタピオカドリンクを俺に押し付けてくる。


「キャラメルと抹茶の相性がばっちりで美味しいので是非!」


確実に俺の反応を見て楽しんでいるな、こいつ・・・俺はそう思った。



校門でシオンに待ち伏せされた後、仕方なく俺はシオンについて言ったわけだが、彼女が向かった先は俺の街にある商店街通りだった。商店街、といってもそこまで栄えている場所ではなく、古き良きシャッター街と老舗の混合した場所であった。


なぜこんなところに俺を連れてくる必要があるのかは分からないが、ともかく俺はシオンに連れられるまま、ここまで来ていた。


そして商店街のお店をぶらりと回りながら、今現在タピオカ屋に居るのだ。古き良きも何もあったもんではないが。



「では、一口。」


俺はぶっきらぼうにそういって、タピオカドリンクを受け取った。不意の行動にシオンの顔は驚いているようにも見えた。


タピオカドリンクに刺さっているストローを俺は抜いた。そしてそのドリンクの蓋までもカパッと開けて、まるでグラスのビールを飲むかのように、勢いよくドリンクを口に流し込んだ。


キャラメルの甘味と抹茶の程よい苦味、そしてツブツブのタピオカが口の中に溢れこむ・・・確かに美味である。


ある程度飲んでから、俺はタピオカドリンクに蓋をし、ストローを刺しなおしてからシオンに返した。どうだ、見たか俺のテクニック。


「先輩って、面白い人ですね・・・。」


シオンは口を拭う俺を見て、きょとんとした顔でそういった。そのあと俺にハンカチを貸そうとしてくれたが、俺は断った。気持ちはありがたかったが。


「では、次のお店に行くとしましょう。」


シオンは切り替えるようにまた朗らかな表情に戻って、俺を連れ立った。移動の時は俺の手を引っ張るようにしっかりと握られてしまう。本意ではないが、振り払うこともできなかった。間接キスしかり、手を繋ぐことが「不誠実」であるという確証がなかった。誠実であるということもどういうことかはわからないが。


橿原という「彼女」に対する誠実さ。

海堂シオンという「ヒト」に対する誠実さ。


それらは両立できないものなんだと思うと、少しだけもどかしくなる。


こうして考えてしまう自分が、過去の自分を掘り返しているようで、心の奥から引き裂かれるような感覚。


ヒトのため・・・。嘘ばっかだな、俺は。


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