四日目 彼女と幼馴染
第22話 両手に華
「あの、圭君も困ってるから離してもらっていいかな?」
右に橿原。
「何を言ってるんですか。あなたは普段からこの男と一緒に居るんですから、帰り道くらい私に譲っていただいてもよろしいのではないですか?」
左に佐藤。
「あの・・・だったら三人で仲良く――」
「「圭君/あなたは黙ってて!」」
「・・・はい・・・」
なんで、こうなったの。
4日目の学校終わり、帰り道であった。
***
長濱先生に報告書を届けたあと、何事もなく一日は終わり、下校時間になった。案外、学校生活と言うものは慣れているが故にあっけなく過ぎていくものだ。それは世界の終焉が今週末に控えているからと言って変わるものでは無い。
『命』が明日尽きるのであれば、それはきっと過去を振り返る良いきっかけになるだろうが、『世界』が終わる、なんて言われても、そんなスケールの大きな未来を想像して過ごすことは、俺にはどうやらできなかったようである。
どうすれば橿原を満足させられるか、そんなことばかり考えていたら一日は終わった。
まあ、それはともかくとして、俺は玄関で橿原を待った。二人で登下校するというのも四日目を迎えていたからか、なんだか慣れてきていた。
「おまたせー圭君」
玄関から、橿原がローファーの軽やかな音を立ててやってくる。揺れる髪が麗しい、というかやっぱいつ見ても可愛いな。
天使、きっと羽が生えているに違いない。
「なんか視線が宙をさまよってるけど・・・どうしたの?」
「ララ・ラ・ランドセルだな、まるで・・・」
俺は天を仰ぎ、目には見えない天使の羽を背負って見せた。
「圭君が壊れた⁉」
「背もたれ、ギュイーーーん」
「そんな効果音のランドセルは怖いよ! 寧ろ子供が吸い込まれてるよ!」
いつも通りの冗談ばかりの会話を、挨拶がてら交わした。
ここまでは、平常運転だった。
「はー、また二人でイチャイチャして・・・」
同じく玄関から出てきた女子生徒に声を掛けられた。一瞬、恥ずかしくなる。そりゃ、イチャイチャしてるのを生徒に見られるのは恥ずかしい。いや、イチャイチャというか漫談か?
「・・・あ、佐藤じゃん」
声を掛けてきたのは佐藤だった。俺の幼馴染で、機関の一員、らしい。同じ高校に通っているとはいえ、佐藤と俺が校内で接触することは基本的になかった。
なんなら、つい先日まで嫌われていたわけで。ゴミを見るような目立ったわけで。
しかし、今日の佐藤の目は、下等な俺を見る冷酷な目つきではなかった。短く無造作に切ってしまった髪を指先でいじりながら、こちらを睨んではいた。
「あれ? 知り合い?」
「えー、と、知り合い・・・かな」
この世界では、俺と佐藤は不仲だったらしいので、幼馴染という表現は適切ではない、か。
「風紀委員として言わせてもらいますが、最近の二人のいちゃつき具合は目に余るものがあると思います」
「そ、そうかなぁ」
佐藤は風紀委員の腕章を巻いていた。
そういや非モテ世界でも佐藤は風紀委員だったな、変わってねえ。規律厳守、勤勉勤労。幼馴染として誇らしいほどの優等生である。
まあ、根本はねじが抜けているのでポンコツなのだとは思うが。
「ともかく、今日は二人が風紀を乱さないように私が一緒に下校します。」
「は⁉」
二人そろって、驚愕する。何を言い出すんだこの人は、と橿原も思っているに違いない、安心して、俺も。
「ええと、それはどういう・・・」
ゴマをするような姿勢で、俺は佐藤に真意を問う。
「そのままの意味です。私が一緒に帰ります。あなたと」
「・・・・・・」
あー、これはあれですね。
「私たち、付き合ってるんです!」
「そんなのは周知の事実です。校内でもイチャイチャしてるんですから」
羞恥でしかなかった。確かに、ここ二日ほど屋上でのアーンのせいでタガが外れていたのか随分と校内でもイチャイチャしてしまったように思う。
どんな風なイチャイチャかと言われれば、それはまあ、というしかない。わざわざ口にして言うようなことではない。というかごめん、思い出すのも恥ずかしい。
「じゃあ一緒に帰るのは彼女の私の特権だよ!」
ドン、と胸を叩きながら橿原は権利を主張する。
マイスイートハニー!! 俺は感動で泣きそうだ!! そんな嬉しいことを言ってくれるなんて! お父さん、ハンカチが足りないよ!!
「それは・・・」
一瞬佐藤がひるむ。しかし佐藤も負けていなかった。
「私だって彼の幼馴染なのですから、その特権はあなた一人のものではありません!」
負けてはないけど、変化球過ぎる。風紀委員の威厳はどこ行った。なんで権利を主張してんだよ。
「だったら圭君に決めてもらうのが筋じゃない?」
あれ? 橿原さん? それはやばくない・・・?
「確かにそうですね。あなたの彼氏さんに決めてもらいましょう」
あっれれ~? 佐藤~? 目的変わってない~? これってそういう遊び? 嵌められてるの?
「ええと・・・」
「「どっちと一緒に帰るの?」」
彼女と、幼馴染と。二人が俺の眼前で問う。
可愛らしくも、険しい顔つきの彼女と、
凛としながらも、イメチェンして一回り魅力的になった幼馴染。
これは断じてハーレムなどではない。板挟み、ダブルスタンダード。
こうして、俺の両隣に二人の女の子が、ガッチリ俺の腕をホールドするという謎の状況に陥ったのであった。
心臓はバクバク波打つし、一瞬たりとも気を抜けない。
柔らかさと、いい匂いと、あとなんだ、幸福感か。
やれやれだよ、まったく。
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