三日目 買い物デート?

第18話 服巡りデート

「ねえねえ玲奈さん、これとこれ、どっちが似合うと思う?」

「うーん、圭君はスタイル良いからオーバーサイズのこっちの方が良いかもしれないね。あ、こういうジャケットみたいなのも似合いそう、はい追加。・・・こんなもんかな~」

「だってさ、にいに! とりあえずオススメ揃ったから試着してきなよ」

「いってらっしゃい、圭君」


「・・・・・・」


 あっ、デートとは言え、服選びってこういう感じなのね。


 俺はお洒落な内装の店内で試着室を探した。すぐに服が並んでいるスペースから少し離れた所に専用の試着室があるのが分かった。一人山盛りのカゴを持ってとぼとぼ歩く。


 学校終わりに橿原と合流して、ややぎこちない会話を繰り広げながらショッピングモールまでたどり着いていた俺は既に満身創痍であった。


 期限である七日のうち、もう三日目。叶った願いは恐らく映画館デートの一個のみ。もっと他にも願いがあるはずで、満足させるためにはその願いを叶えるのが手っ取り早いであろうに、俺の服装ビフォーアフターなんかしてる場合かよ。


「・・・ふむ、ジャケットってかっけえな」


 とはいえ。

 なんだかんだ似合いそうな服を考えてもらって少し舞い上がっているのも事実であった。もう! お茶目さんだなぁ俺!!


 試着室で服を着替えながら、前の世界ではありえなかった今の状況に、つい顔をほころばせる。休日はジャージ、外出してもパーカー以外着なかった俺がこんなお洒落な服を着ていいものなのか。いや、寧ろ似合わないという可能性も・・・


「どう? 着替えれた?」


「な⁉」


 試着室の外から橿原の声がしてびっくりする。なんだ、モテモテの陽キャたちは普段こんな怪しい遊びをしてるのか? 俺のファッションを待ちわびてくれる人がいていいのか⁉ 試着室の鏡でセルフチェックして終わりじゃないんだ⁉


 ファッションショーみたいだな・・・


「き、着替えれた」


 俺は震えた言葉を返した。

 なんだその言葉。幼稚園児のお着替えみたいになってるじゃねえか。

 恐る恐る目の前のカーテンを開けた。レッドカーペットと無数のフラッシュが俺を照らしている気がしてきた。


「ど、どうかな」

「え、えと・・・」


 俺を見るや否や、橿原は突然俯いてしまった。え、なに? 笑いこらえてるの? もしかしてそんなに似合ってない? てか恥ずかしいなおい!


「あ、あはは・・・似合ってないかな、俺。ま、まあ普段こんなの着ないし似合ってなくても当然だよな」


 えへへ、と恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら俺は頭を掻いた。穴があったら入って蓋をして漬物石でも置いて、出られなくしてしまいたい。それくらいである。

 だが、帰ってきたのは予想外の言葉だった。


「いや、そうじゃないの!」


 橿原は尚も俯いたまま強く言い切った。一体どういうことなのか。俺のファッションショーは無観客試合通り越して自己満足の展示会だとでもいうつもりかなのか。


 頭の中で軽口を叩き続けないとこの羞恥に耐えられない俺が居た。


「えーと・・・」


「こ、こんなの、反則だよぉ・・・」


 もじもじとする橿原。なぜか、あの日のギャル橿原が脳裏にチラつく。

 ――踏切で俺にプロポーズしてきた悪戯っぽい笑みの橿原。

 と、いうことはやはり人格としては同一の人格なのだろうか、と恥の沼に沈みながら思った。


「圭君がいつも以上にまぶしくて、見てられない・・・」


 予想の斜め上通り越して正反対の答えを返されてしまった。

 頬を両手で挟んで、俺と同じく頬を紅潮させている橿原だった。


「お、おふっ。」


 おふってなんだ、不意付かれて意味不明な言葉を発するな俺。


 けど、なんか滅茶苦茶嬉しかった。普段そんなに褒められない俺としては昇天してしまうそうなくらい。


「普段の圭君もラフな感じでいいんだけど、こう、ピシッと決める系のファッションもやっぱ似合うなって。もう、完璧・・・」


 服屋の店員が、客にごり押ししてくるレベルで俺をほめたたえてくれる。

 いや嬉しいて!


「直視・・・できないよ」


 うん!!!かわいい!!!!!

 あなたが満点です!!!!!!!!!!!

 顔赤らめながら、制服の袖で口元抑えてるのポイント高すぎませんかぁ!!!


「あ、ありがとう・・・」


「ううん、いいもの見せてくれてありがとう。」


「いいものて、どういう観点だよ・・・」


「うーん・・・新鮮さが大事、みたいな?」


「生ものじゃね?それ」


「あはは、違うよ、生ける化石みたいなもんだもん!」


「・・・はい?」


 俺はやはり天然記念物かなにかと勘違いされていないか不安である。


「さ、もっと他にも色々服探してみたから着てみてもらってもいい?」


 言って、新たな山盛りのカゴを俺に見せる笑顔の橿原。今着ているジャケットとジーンズとはまた随分と毛色が違う服だった。

 どう見ても、タンクトップ。なにそれ、童貞殺すセーターの男版か? なんで厚手のタンクトップとかあんの? 誰用なの?


「あ、でも、圭君なんでも似合っちゃうし、いちいち照れちゃうから私が耐えれないかも・・・」


「―――くっ、かわいい」


 天然な彼女、爆発力が凄いな! 思わず口から本音が!!


「え、どしたの? 圭君」


「な、何でもない! さあ! 服を!」


 世界を救うために、彼女に「可愛い」と伝えることは何ともないのだが、心の底から出てしまった言葉となればそれは話が違う。それなりに恥ずかしいし、二回も言ってられない。それが、非モテの習性だ。


 まあ、だからといって、新たな服を求める俺の言動も、十分こっぱずかしいものだとは思うけど。

 なんか、言葉だけ見たら裸の皇帝みたいじゃね?


 まあともかく、そんな感じで俺と橿原のファッション巡りは進んでいった。学校終わりからのデートということもあって、さほど時間は残っていなかったのだが、店を変え、服を変え、時間の許す限りデートを満喫した。

 橿原の着せ替えショーも見て見たいものだが、それはまた別の機会になりそうだ。


 ところで、妹は俺をおいて自分の服を買いに行ったらしい。

 我が妹よ。自由奔放すぎ。

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