佐藤結奈は幼馴染

第13話 再会?

「あの、ちょっと待ってもらえますか?」


 背を丸め、にやけ顔で橿原への返信メッセージを入力していた俺は、突然かけられた声に驚いた。というより普通ににやけ顔を晒していたかもしれないことが恥ずかしくて咄嗟に俯いた。


「えっと・・・」


 声を掛けてきた人物を下から上へ観察する。ローファー、黒ニーソ、縦ラインのスカート、ブラウス・・・あれ?どう見ても俺の高校の制服では??


 そして顔まで視線が上がったところで俺は声をあげてしまった。


「あ、佐藤じゃん」


 佐藤結菜、俺のクラスメイトであり、我が高校の風紀委員長。互いの親が旧友だとかで俺たちも漏れなく腐れ縁となっていた。というわけで佐藤は俺にとっては元の世界での親交がそれなりにあった数少ない友人の一人だった。

 短く括ったポニーテールを少し揺らして、黒淵目がねを右手で上げなおしながら彼女はこちらを睨み付けていた。

 あれ?俺なんかしたか?犯罪者を見るような憎しみのこもった目なんだけど?


「え、どしたの佐藤。なんでそんなに睨んでんの・・・?」


「・・・白々しいですね。あなた」


 更に佐藤の目付きが鋭くなった。

 え、なにこれ、ホントに怖いんだけど。一昨日まで普通に登下校とかしてたのになんでこんなにキレてんの?・・・って、あれ?登下校・・・?


 その瞬間、俺の思考は光の速さで答えに辿り着いた。


 一昨日までの俺、つまり元の世界では、しばしば俺と佐藤は登下校を共にする仲だった。(まあ夜遅くて佐藤の親御さんが心配するからと親同士で結ばれた約束事だったわけだが)しかし、そんな俺に彼女ができて登下校する相手がいなくなってしまった佐藤は親から必要以上に心配され、その鬱憤を俺にぶつけようとしている!そういうことだろう!!!見たかこの名推理!!!!

 というか!この理論で行くと佐藤も俺と同じ『元の世界』の記憶を持っているということか! 

 一筋の希望が見えた気がした。


「あー、そういうことか、悪かった。この世界では俺、彼女居るから登下校は一緒に出来ないんだ。親御さんにも俺から謝っておくよ。ごめんな」


 はい解決解決。


「は?そんなことではありません。あなたと一緒に登下校なんて考えたくもありません。身の毛がよだちます」


 ・・・ん?

 解決してなかった。なにより俺の中ではこの間までそれなりに仲良くしていたと思っていた友人から『あなた』と他人行儀な呼び方をされることが少しずつとはいえ心にダメージを与えていた。

 如何にもよそよそしい『あなた』だった。


「え、あ、えっと・・・じゃあなんの用事かな?借りてた漫画返せとか?そういう感じ?」


 名推理を見せていた俺がなぜかたじろいでいた。もはや俺が犯人である。

 昨日に引き続き今日のこの世界もワケがわからん。


「問題から目を逸らすことしかしないその精神、つくづく吐き気がしますね」


 彼女はゴミを見るような、いやもっと下等な別の何かを見るような目で俺を見下す。

 待ってくれ、どういうことだよ。


「はーっ」


 佐藤は一息ついた後、両手を使って後ろで結ばれたポニーテールをほどいた。言われてみれば彼女のポニーテール姿しか俺の記憶にはなかった。こうみるとミディアムヘアくらいになるのは、ある意味で新鮮だった。

 そしてすぐさま右手でポケットから何かを取り出し、左手で髪を束ねた。取り出した何かは夕日に照らされていた。


――ハサミ・・・?


 何かを特定し、そこから考えられる行動を理解した時にはもう、その行動は終わっていた。


「こうすれば、あなたのようなゴミでも思い出せますか?」


 バサリと先程まであった髪を無造作に切り落とす。あっという間に、ミディアムだった髪が一気にパッツンショートに変わる。ノーメイクでも、何一つ付けなくてもその顔は凛々しく、美しく、そして険しくもあった。


 佐藤は音もなく俺に接近し、黒縁眼鏡を外してから顔をぐいと近づけた。瞳の中に俺が写る。

 睨むような目で、俺の心の奥まで見通されているような感覚に陥ってしまう。

 なんだ、これ。というか、眼鏡なし佐藤とか初見なんだが。


 ガラリとイメージが変わってしまった佐藤の容貌を見た俺は混乱していた。

 

 佐藤は何て言った?『思い出せるか?』だって?そんなんいわれても・・・


 と、思考を巡らせていると佐藤がよく分からない言葉を口にして。

 直後、


 ――景色が割れた。


「――――ッ!、ぐっ――――」


 頭が痛い、なんてもんじゃない。


 耳からは爆音が、視界は訳のわからない変な模様でぐちゃぐちゃになった。

 現実が歪むような感覚に言葉が出ない。

 何も聞こえない。何も見えない。


 痛い、痛い、痛い。それしか思えない。頭が、割れそうだ。


 瞬く間に思考は掻き消え、意識は離れていった。



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