第8話 綺麗なものは私のものに
「楓、今日もひま?」
「……」
「否定しないということは暇だよね!今日は飲みに行こう!」
美女と野獣。
どこかから声が聞こえてきた。私は、大学のエントランスを睨み目で見渡した。
楓は何も言わず、話しかけられたまま固まっていた。私は、彼の手を取った。「行こ!」手を繋いで歩いて行った。
それを彩は見ていた。そして、エントランスで何人かと談笑してるグループの中で、1人鬼のような形相でギリッと爪を噛んだ。
「…撫子のバカ。」
・・・
「目立つことは辞めてくれ。」
飲み屋が個室だと知り、安心したようだ。そして、タッチパネルを見てさらに彼は安心した顔をしていた。
私は、ガーゼの顔を彼が気にしていることは何となくわかった。
だから、タッチパネル・個室で検索してお店を調べたかいがあったなと思った。
そして、彼の言葉の意味はおそらく、大学で話し掛けるなということだろう。
「だってあなたLINE見ないんだもの。それに、話しかけるのは普通のことだわ?何が目立つのよ。えーと……生2つと」
ぴっ
彼にタッチパネルを渡す。注文してくれるかと心配したが、彼はするっとパネルを受け取った。
「お前は、目立つんだよ。」
ぴっ
何かを頼んだようだ。よかった。
楓は安心すると、喋るし、素直になる。
一緒にいてわかったことだった
そして、私は楓を知るうちに惹かれていた。
あのお城の作品のコンセプトを聞くと、彼は言った。
「お前が信用出来たら、話すよ。」
私の求める、綺麗なもの。
彼は、それを大切に、大切にしていた。
それに、私のことを「子供」と思っているようだが、真剣に話を聞いてくれた。
それから、大学では話しかけないと生ビールを乾杯しつつ約束してお互いのことを話した。
楓は家族が父親のみいるらしい。兄弟はいない。顔のキズについては話さなかった。逆に、私のことを聞いてきた。だから、私は家族も父親のみ。兄弟は兄が1人。
やばい、結構飲んでしまった。
私は顔が熱いのを感じた。
私はぼーと楓を見た。楓の目は青かった。ガーゼと前髪で隠れた片目はわからないが、きっと青なのだろう。
「楓ってハーフ?」
カタンと私は席を立って、彼の隣の席に座った。そしてじーっと見つめる。
楓は驚いたように、椅子を私から離した。
「ああ、、そうだよ。」
彼は耳が赤くなっていた。
可愛い。
私は、近くに寄っただけで赤くなる楓が愛しかった。そして、その純粋な心が欲しくなった。
私も、そうなりたい。
「楓、キスしたい」
「はぁ?」
私は彼の手をそっと握った。
しかし、その手は振り払われた。
「酔ってるやつとキスしねーよ。だいたい、俺とキスして何になるんだよ。」
「酔ってないもん…。キスしたら、楓と繋がれるんじゃないかなって。」
私は振り払われた手をぎゅっと胸で握った。欲しい、欲しい。
手に入れたい。
「はぁ……俺は、お前をまだ信用しきってない。から、今日はもうお開きだ。」
「いーやーー」
私は、彼の前にあった酒をがっとつかみ、
飲んだ
「ちょ、それ一気は……」
ごくっごくっごっ
「はれ……?」
目の前が真っ暗になった。
・・・
「そいやさー、本当なの?彩ー?」
同時刻、別の飲み屋では、建築科のグループで彩は飲みに来ていた。
「えー?何が?」
彩は慎重に、そして周りにも聞こえるようにわざととぼけた。
「あの、お城の設計図、書いたのがガーゼってことだよー」
「え?そうなの?」
「えーーーー私、あの絵見たけど感動したのにーーーショックーーー」
ざわざわと場が騒ぎ始める。
彩はぞくぞくとしていた。
アイツを消せるという期待に胸が膨らんだ。
「…んーーよくわかんないけど、そうみたい。浅野教授が話してるところ聞いちゃって……」
「浅野教授、確かにガーゼと仲良さげだったもんねーーー」
「まじかよ、教授のえこひいきか?」
「でも作者名なかったじゃん?」
「あんなやつが書いた設計図とか誰も見ないって思ったからじゃねえーの?」
「まぁ、たしかに作品としては悪くないとおもったけどガーゼが作ったと思うとやだなー」
いい感じ。彩は笑いをこらえるのに必死だった。
あんたが悪いのよ。
私から、撫子を奪うから。
彩と撫子が出会ったのは高校生の時だ。でも、彩は撫子のことを小学生の頃から知っていた。
あれは、合同プール開きのことだった。私と、撫子の学校が合同でプール開きを開催した。撫子の学校のプールが壊れたかららしい。
プールを挟んで、1番前に座っていた撫子。大きな目、ツンとした鼻、小さな唇、白い肌、一際目立つ可愛い女の子だった。
一目惚れだった。
あれほど、ドキドキしたことは無かった。
そんな彼女は、誰とも話していなかった。何故だろうと思っていた。
後から聞いた話では、撫子はいじめられていたらしい。しかし、撫子はクラスであることを発言し、撫子の父親がPTA総会で演説をして、収まったらしい。
高校で、仲良くなってからそのことを撫子に聞くと、撫子は言っていた。
「あぁ、たしか『エンコウってなんですか?』って、クラスの授業中に先生に聞いたの。」
私は、今でも覚えている。
撫子の純粋さを。
普通、エンコウ=援交だと、わかるだろう。しかし、撫子はわからなかった。そして、本当にわからなかったから、先生に聞いた。
両親が離婚し、父親が援交していると噂がたち、「汚い」と撫子はいじめられたらしい。しかし、そんなのはただの噂だったということを撫子の純粋さが訴えたのだ。
純粋。
この子は、宝石だ。
益々好きになった。
それから、友達としてずっと傍にいた。
彼氏がいたから想いは伝えなかったけれど、彼氏と遠距離になり、裏切られ、別れた撫子。
やっぱり、私じゃないとね。
今度こそ、私が傍にいるよ。
そう思っていたのに。
アイツが現れた。
私はどうしたって女だ。同性なのだ。
でも、性別は関係ない。
私は、「撫子」が好きなのだ。
「彩?ぼーとしてどうしたのー?」
撫子を奪うものはもう、許さない。
「ううん、なんでもない」
明日が楽しみでしょうがなかった。
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