第6話 綺麗なものを睨むもの
「あなたも、綺麗なものが欲しいの?」
彼の顔はガーゼで右側は見えないから、左側の顔からしか表情は読み取れない。
しかし、それだけでも分かるくらい彼の顔は驚いた表情をしていた。それも、すぐに無表情に変わったが。そして、一言低い声で発した。
「失せろ。」
私は固まった。
私はこれまでの人生で人に話しかけてすぐに「いなくなれ」と言われたのは初めてだったから。
「なっ……」
「……俺に話しかけるな。」
彼は冷たく、目も合わさずに言った。
「な、何よ!!失礼にも程があるわ!!!!」
私は彼を指さし、怒りを露わにする。
しかし、私の脇を掴んで浅野教授に飛びつくのを止めていた彩は一息ついた。
「あんたが言うか。」
・・・
撫子はこほんと、一息つく。
「えー、浅野教授、そして、たしか、楓くん?その、急にお騒がせしたことをお詫び致します。」
そして、その場で深々とおじきをする。
その隣で彩は、まったく……というように呆れて私を見ていた。
「許してください。この子、昔からこうだって思うと周りが見えなくなっちゃうんです。」
彩も一緒に頭を下げる。
「いやいや、そこまで気にしないで。」
「……」
浅野教授は苦笑しながら言った。
そして、黙っている隣の彼をちらっと見た。そして、私を見て言った。
「……大丈夫だよ。それより、なんだっけ?お城の作品がどうしたの?」
「……はい。私は、あの作品がとてもとても綺麗なものに見えました。だから、作者さんに会いたかったんです。」
浅野教授は、優しく笑った。
私は、「楓くん」が、作者だと確信していた。だから、作者の前で直接感想を言うのは、少し恥ずかしかった。
「そうなのか。でも、どうしてそこまでしたの?」
「それは……私は、作者さんのあの作品を作った考え方が綺麗だなって思って。だから、これを作った人もきっと綺麗な人に違いないと思ったんです。だから、その人に会いたいんです。」
私は、心が綺麗な人と、言葉にするのが恥ずかしくて省略した。しかし、その言葉を聞いていたのか、浅野教授よりもその隣にいた彼が答えた。
「……綺麗な人ってなんだよ。」
彼は怒りではなく、どこか悲しそうに、でも感情のない声で問いかけてきた。
そして、私に1歩近寄った。
さっきまでは、目が合わなかったから気が付かなかったが彼の目は青かった。
まるで、海の中のような。
深い、深い青色。
「お前は、俺が綺麗に見えるのか?」
彼は、私を真っ直ぐ見て問いかけてきた。
彼は私を試しているようだった。見た目のせいだろうか?そんなの私には関係ない。
そんなことよりも、私は、彼の言葉を聞いて、嬉しくなった。
「やっぱり、あなたなのね!」
彼は、予想外の反応に目をまんまるくしていた。
私は、彼に近寄り、彼の右手を両手で握った。
やっと、会えた。
私を、綺麗なものでいっぱいにして、綺麗にしてくれるもの。
「私、あなたに会いたかった!」
彼は、私のその言葉を聞いて、右の頬が耳まで真っ赤に染まっていた。
(さて、どうなるのかな。)
彼はニコニコと見ていた。
まるで、パズルのピースがはまったかのように出会った2人を。
(おっと。彩さんがほったらかしにされているな。)
彼は、まるで蚊帳の外の彩に気を使って話しかけようと、彩の顔を見た。
(……ん?)
彩は、眉を寄せ下唇をギリリと噛んでいた。
まるで、あの2人が気に入らないとでも言うように。
その顔を見て、彼は真顔になり彩に一言だけ言った。
「……邪魔、するなよ。」
彩は、びくりと肩を震わせた。
しかし、彼女は怒ったような低い声を出した。
「私は、認めない。」
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