第4話 綺麗なものでいっぱいにしてほしい
今日は日曜日。
私は近所の時々のんびりするために行くカフェ「まるの屋根」に来ていた。
屋根が丸い訳では無いが、煙突があり、煉瓦で作られたこじんまりとした一軒家のカフェだ。煙突からはふわふわといつも煙が出ており、どことなくまるい、優しい雰囲気がしてくるお店だ。
そして、このカフェに来ると必ず鼻の下にちょび髭を生やした店主が私を、窓際の席に案内してくれる。私のことを覚えてくれているようだ。
私を案内したら、店主はカウンターの椅子に座る。店主の身長は150cmくらいと、私より小さいため椅子に座ると、もう見えない。それでも、「いますよ」と言うように、新聞を読んで、ゆらゆらとページをめくっている。
そこで、私は新作の桜の紅茶を飲むことにした。
桜味といえば、癖のある匂いや苦味があり好きではないが、ここの紅茶は桜のほのかな香りと、スッキリとした香りと味わいで、とても飲みやすいのだ。
美味しいなと思い、写真を撮ってSNSへ投稿した。
ふと、履歴のページを開き、自分の投稿履歴を見る。私の投稿には、食べ物や、彩との写真ばかりだ。
でも、これらの写真にはそれぞれ私が幸せだった思い出がひとつずつにある。だから、私は自分の投稿履歴を眺めるのが好きだ。
この、キラキラした綺麗なもので満たされているって感じ。
さらに言えば、こうゆう綺麗なもので、幸せなものでいっぱいの人間なんですって証明してくれてるみたいだった。
私は汚れてしまった。
運命の人だと信じて、愛した人は浮気をして、私は知らない間に踊らされていた。
私のことは元彼氏様にはさぞ滑稽に映っただろう。1人になると、こうやってどす黒い気持ちでいっぱいになる。
しかし、このお気に入りのカフェにいるからだろうか、紅茶が美味しいからだろうか、投稿を見返しているからだろうか。どす黒い感情とは対照的な、キラキラふわふわ。
綺麗で幸せなもので私の世界は、いっぱいになっていく。その間は、汚い自分を忘れられるのだ。
つまりは、1人破局パーティーだ。いえーい。
そんな中、タイムラインの投稿を見ていると、元彼氏様の投稿が上がっていた。
「うわ……最悪。」
そう言いながらも、私は元彼氏様が投稿している三枚の写真をスライドして見ている。
こんなクソ男に未練なんてないけど。
三枚の写真は、大学のサークルでのバーベキューの写真のようだった。春にやるとかはバカみたいだが、彼はバカだからしょうがないのだろうと思いながら、桜の紅茶を口へ運ぶ。
そして、三枚目には女の子とのツーショットがあった。
「ぶっ」
それを見た瞬間に、私は吹き出した。
「なによこれ。」
投稿の文章には、「いつまでもうじうじしても変わらないよな、これからよろしく!」と爽やかに書かれていた。しかも、これまでの投稿で、私とのデートの写真とかを投稿していたはずなのに、全て消されていた。
コノヤロウ、何股してたんだ。
別れて、おそらく1週間ぐらいだろう。私は、携帯の電源を落として、紅茶を飲む。
なんだか酷く疲れた。
そして、彼にとって私はもう消されたのだ。
その行為が、私は「もう用済みだからいらない」と言われたようで、私の品が下がった気がした。
いや、下がってるんですけどね。
私はまだ、別れたことから立ち直れていないのが、なんだか悔しかった。こんなにも最低な元彼氏様なのに。長く付き合って情もあったせいか、なかなか忘れられないのか。
「うーーーー」
私は両手を握り、わなわなと震えた。そして、彩にメッセージを送った。
「暇?これからカラオケ行こ!彩と一緒にいたい!」
そして、すぐに席を立って、トレンチコートを羽織り、カウンターのゆれてる新聞に声をかける。
「桜、美味しかったです!ごちそうさま!」
店主は新聞紙を降ろして、手を振った。
お代を置いて、私は店を出た。
すると、すぐに彩から返信が来た。
「もちろん、朝までだよね?」
彩は、ずっと一緒にいてくれる友達だ。この前話し足りてないことを察してくれたのだろう。
私はすぅっと息を吸って言った。
「あんなヤツより、綺麗なものでいーーぱいにしてやるーー!」
私は走る。
だって、綺麗なものでいっぱいにすれば、私も綺麗に見えるでしょう?
だから、私は探すんだ。私を綺麗なものでいっぱいにしてくれる何かを。
そう、心に決めて私は走った。
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