ROUND 7

『なるほど、それもそうだな』


 ガマガエルは意外とあっさり頷き、後ろにいた一人、

(恐らく弟分か何かだろう)に何事か声をかけた。


 そいつは走ってどこかに行ったが、間もなく戻ってくると、


『兄貴、用意が出来やした』


 と囁いた。


『さあ、来て貰うぜ』


 ガマガエルが俺達を促した。


 俺も吾郎も、黙って言うことを聞き、表に出た。


 そのまま近くの立体駐車場まで案内され、エレベーターに乗る。


『悪いがな。こいつを付けてくれや。場所を知られるとまずいんでな』


 ガマガエルが言うと、もう一人の弟分が、アイマスクを二人分出し、俺と吾郎に渡す。


 何も言わず、俺達はそれを付けた。


 エレベーターは立駐の一番上、つまりは6階で停止した。


 最近のエレベーターは便利なものだ。


 音声で階数を知らせてくれる。


 6階につくと、俺と吾郎は二人の男に挟まれてワゴン車に載せられた。


 スライド式のドアが開く音がしたからな。


 目が塞がれていても耳がある。


 車江東区、深川辺りに向かっているらしい。


 1時間ほど揺られた後、どこかから船の汽笛が聞える、倉庫街についた。


 俺たち二人はそこでやっとアイマスクを取ることを許された。


 そこから少し歩くと、


『6』


 と大きく書かれた鉄の扉の前に立ち、入口の戸を一人が軽くノックする。


 小窓が開いて、向こうから何か声をかけてきた。

 男が小声で答えると、ドアが開いて俺達は中に入れられた。


 倉庫の中は意外と広く、随分大勢の客でひしめいており、スポットライトが当たる、その丁度中央に、金網でしきられた8角形の妙なリングがあった。


『さあ、新チャンピオン、今から二度目のタイトルマッチをやって貰うぜ・・・・』


 ガマガエルが残忍な笑みを浮かべながら、俺達の方を見て言った。


 なるほど、そういうことだったのか。


 これは『格闘技賭博』という奴だ。


 リングの上では既に試合が始まっていて、二人の男が闘っているのを眺めながら、客たちが金を賭けている。


『最近は俺たちの業界もシノギがきつくなってな。こんなことでもしなきゃ、やっていけねぇんだ。どうだチャンプ。やってくれるだろ?』


有無を言わさず、といった体でガマガエルが言った。


『ちょっと待ってくれ』


 俺が口を挟む。


『吾郎は表のプロだろ?しかも今ひと試合終えたばかりだ。それじゃ幾ら何でも酷ってもんだ。どうだ。俺が代わりにやってやる。』


『お前が?』


 じろりと俺の顔を見る。


 出来るのか?とでも言いたげな表情だ。


『勿論、プロじゃないが、そこそこはやる』


『おい・・・・あんた・・・・』


 言いかけた吾郎の言葉を俺は止め、


『俺の依頼には危険手当もあるんだ。稼ぎが多ければ、後から美味い酒が呑める』


 俺の言葉に、吾郎は何かを察したのだろう。


『ようし、じゃ、話は決まった。支度をさせてくれ』


 


 


 


 



 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る