ROUND3

 試合は前座(第一試合)から始まって、セミ・ファイナルまで進んだ。

 

 ディスコのような照明。


 耳をつんざくようなBGM。


 格闘技の試合ってこんなもんだったかな、と、俺のような古い人間は首を傾げた。


 俺は郷原の配慮で、リングサイドの一番いい席に着いた。


 試合はどうやら、ネオ系と、この団体の対抗戦という形式になっているようだ。


 相手方が覆面あり、髪を三色に染め分けたのありといった、正にケレン味たっぷりという感じなのに対し、ネオ系は地味でお世辞にもぱっとしない。



 セミはむこうさんはマスクマンで、今売り出し中の若手ナンバーワン、

『ゴールドジャガー』だった。


 ネオ・レスリングサイドは、どちらかといえばヴェテランで、

『嵐』という名前で、ポジションとしてはヒールだ。


 ご存知の方も多いだろう。


 こうしたプロレスには、

『ブック』と呼ばれる筋書きと言うものがある。

 

 つまりはあらかじめ、


『こうして』


『こうして』


『こうなって』という具合に試合の流れが決めてあるのだ。


 台本のようなものが存在する事例もあるそうだが、大体は昔の歌舞伎でいうところの立ち回りの如く、


『口立て』というものらしい。


 レスラーはそれを知ってリングに上がっているから、上手いことベビーフェイス(善玉)が勝ち、ヒールが敗れる。


 無論観客の方も、承知の上で観戦に来ているのだ。


 逆にこれを破ったりすると、却って試合そのものがグダグダになって成立しなくなってしまう。


『八百長だ、汚い』


 と言ってしまえばそれまでだが、


 ショーなのだから、それで観客が満足すれば団体も儲かるし、それがレスラーたちの明日への補償につながるという訳だ。


 しかし、中にはそう思わないレスラーもいる。


 それが今日メインでタイトルに挑戦する。


『塩原吾郎』だ。


 彼は、


『プロレス』ってのは『プロのやるレスリングでなければならない』そういう信念を持っている。


 それでは食っていけないというのは十分に知っている。


 しかし本人は『俺はそういう生き方しか出来ないんです』と、師匠である郷原に語ったという。


 それが本当なら、俺は益々今回の仕事に乗り気にならざるを得ない。


 何故って?


 俺もやっぱり『バカ』が好きなんだよ。



 俺はメインの試合を途中迄観て、席を立った。

 今のところは確かにゴールドジャガーが押しまくられている。


 しかしながら、


『ブック』通りで行けば、あと一分もしないうちに巻き返して、彼が勝つだろう。


 俺の目的はこの試合じゃない。


 兎に角控室に行って、実際に塩原吾郎に会うことだ。


 後ろでは鋭い歓声があっちこっちから飛んでいる。



 


  

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る