第1章 俺もチートキャラになりたいんですけど…
第1話 異世界転移
前期中間試験中、それは起こった。
急に教室の照明が落ちたかと皆が思った瞬間、教室の外が暗転した。
窓の外には暗闇が広がり何もない空間が続いているように見える。
教室内は生徒の戸惑いの声と窓に近寄る足音で埋め尽くされていた。
「おい、なんなんだよこれ!」
「なに!? なんなの!」
「訳わかんねぇよ。いったいどうなってんだよ!?」
教室内は暗転しており外は暗闇のはずであるが、なぜか視界は十分に確保されている。
完全な暗闇ではない分、まだ取り返しのつかないほどのパニックは起こってはいないが、突然の出来事に生徒たちは困惑していた。
試験監督をしていた非常勤の新人講師も同様である。
仲のいいクラスメイト同士で集まり現状について話し合っている中、席に着いたまま窓枠の外を静かに眺める男子生徒が一人いた。
彼、
「まじかいな」
◇◆◇
風舞
今回の数学の試験は正直余裕だった。
テストの回答時間はまだ半分以上も残っているが見直しも既に終わっているし、めちゃんこ暇である。
俺はテスト期間中は一夜漬けをせずぐっすりと眠る派なので、居眠りで時間をつぶすことはできない。
「妄想でもするか」
そんな暇人の俺は特技の一つである妄想をして時間を潰すことにした。
男子高校生なら誰でも一度は考えるであろうテロリストの襲撃シリーズとゾンビの大発生シリーズの妄想はもうやりつくした。
電車通学の時間が長い俺は他者よりも妄想レベルが高いのである。
そんな妄想マスターの俺が最近はまっている妄想テーマは『もしも異世界に行ったら?』だ。
俺は異世界物のラノベやアニメが好きなのだが、クラスのオタク友達にはこの趣味は分かって貰えない。
彼ら曰く、なろう系は時間の無駄だそうだ。
面白いのに。
まぁ、それはともかく先ずは妄想のテーマを決めなくてはいけなくちゃだな。
(そうだな。今回は異世界への召喚方法について考えてみるかね。)
かくして、今回の俺の妄想テーマがそれに決まった。
最近の俺のトレンドはクラス召喚である。
クラスメイト全員と異世界に行くあれだ。
俺は別にクラスで浮いているわけでもないし、友達も2、3人はいる。
正直一人で異世界にいくよりもクラス転移の方が面白そうな気がする。
それに、俺のクラスにはどうも主人公っぽいやつもいるんだよな。
勇者っぽい名前の彼は成績優秀、文武両道、可愛い幼馴染もいて可愛い留学生も家にいるそうだ。
きっと他にも沢山の可愛い女の子とお付き合いがあるのだろう。
話したことないから知らんけど。
まぁ、クラス転移したときは頑張ってくれ。
とはいえ、散々話しておいてなんだが主人公っぽいやつは正直どうでもいい。
俺がクラス召喚が良いと思う最大の理由。
それは、俺の右隣に座っている
正直、俺は彼女に惚れている。
興味がないって?まあ聞いてくれ。
土御門さんはとても素晴らしい女性だ。
眉目秀麗。
黒くて長い艶やかな髪。
出るところは出ていて引っ込むところは引っ込んでいる大人っぽい姿態。
凛としていながらも優し気な雰囲気。
要は俺の好みにどストライクである。
あれは一年生の入学式の日の事だ。
テンションが上がって始発電車で学校に行った俺は、どうしようもなく暇になってなんとなく掃除をしていた。
正直なんであの時の俺は掃除をしようと思ったのか今でもわからない。
そんな俺が掃除をしている教室に最初に入って来たのが土御門さんだった。
「あら、その胸のリボン。貴方も新入生でしたか」
「ええ、まぁ」
「ふふっ。朝早くから登校して掃除なんて偉いですね。これからよろしくお願いします」
その時に差し出してくれた右手の柔らかさと彼女の笑顔に俺は完全に恋に落ちた。
その後彼女と何回か話すようにはなったが2年生になった今でも彼女との仲は大きく進展していない。
まあ、要するにだ。
彼女にこの思いを伝えるまではまだ異世界に一人で行く事は出来ないのである。
異世界でピンチになっている彼女を助ければワンチャンあるんじゃね、という邪な考えがないとは言えなくもない。
ああ、テストを受けている土御門さんも素敵ですね。
後はまぁ、あいつもこのクラスにいるが、それはいいだろう。
そうして妄想を進めていき、俺が
「異世界行きてぇなぁ」
と呟いた直後、教室の照明が落ち窓の外が暗転した。
クラスメイトは皆騒然としているし、試験監督の若い先生も腰を抜かしている。
土御門さんも目を見開いていた。
「マジかいな」
おいおいおい!冗談だろ?
まじかよ、おい。
え、本当に異世界に行っちゃうの?
異世界行くときって魔法陣とか出るんだよな?
ないってことは違うのか?
っていうかこれ俺のせいか?
俺のせいで全員で異世界行ったら、俺干されんじゃね?
ごめんなさいごめんなさい。
異世界行きたいなんて言ってごめんなさい。
そう俺が念じていたその時、今まで暗転していた教室の外が突如極彩色に輝き、俺は気を失った。
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