第75話 訳ありヒッチハイク
まだ肌寒さの残る4月初旬。春、それは始まりの季節。朝日が登るのと同時に私は何かに駆り立てられる様に外へと飛び出した。春の風に舞う桜もきっと私の「始まり」の背中を押してくれているのだろう。小さめのリュックを抱えて向かうのは高速道路インターの入口。の手前の道路。
リュックから「遠くまで」と書いた段ボールを取り出し、高速道路インターへと向かう車に掲げる。
時間にして30分、車の台数は軽く100台近くが私の前を通り過ぎた頃。一台のワンボックスが目の前に停車した。
「お待たせー、おねえちゃん乗りなよ」
頭に白のタオルを巻いた現場仕事風のおじさんに声を掛けられた。チラッと車内を覗き込むと8人乗りの車内は席が埋まっていた。
「人いっぱいですけど、、、」
「あぁ、俺がここで降りるからいいよ。あと、考える時間はあるからな」
私の心を察している様な口ぶりのおじさんが車から降りると助手席のお姉さんが運転席へと座った。また後部座席の1人が助手席に移ると後部座席でも1席ずつ移動しだした。私はおじさんに促されるまま後部座席の左隅へと座った。笑顔で手を振るおじさんを置いてワンボックスは走り出した。遠く長い旅へと。
あれから1年、、、7度の出会いと別れを繰り返して私は今ワンボックスの運転席に座っている。運転席に座って約1ヶ月、運転しっぱなしの私の肩と腰はもうバキバキだった。
「あそこ!あそこ!」
助手席の田中さんが突然指を差しながら声をあげた。助手席はヒッチハイクする人を見つける役割。行き先や目的地を示す人は乗車出来ない為、後継者探しはいつも苦戦する。
田中さんの指差す方向に「どこか遠く」と書かれた段ボールを掲げる大学生らしき女の子が見えた。私は嬉しい様な寂しい様な気持ちでハザードランプを焚くと女の子の前へと停車した。
「お待たせー、乗っていいよ。私はここで降りるから」
キョトンとする女の子を尻目に私はワンボックスに笑顔で手を振ると、あてもなく歩き続けた。山路を進むと盛大な桜並木が忽然と目の前に現れた。春の風に舞い上がる桜。見知らぬ街の見知らぬ桜の木に懐かしさを感じた。ワンボックスに乗車したあの日も桜の木が私の「始まり」の背中を押してくれた事を思い出した。ありがとう。
私はリュックからロープを取り出すと桜の木にしっかりと括り付けた。
さぁ終わりを「始めよう」
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