第71話 家族の形

「あなた起きて、朝よ」


 頭にぼんやりと響く妻の声に寝ぼけながら目を覚ます。念の為にセットしている目覚まし時計のアラームはもう1年近くお役御免だ。


 顔を洗い、仕事の身支度を済ますと3人分の朝食の準備に取り掛かる。卵焼きに焼き魚、ご飯と味噌汁。毎日同じ朝食のメニューに飽きてはいるが、陸斗のリクエストだから仕方がない。


 お米の炊き上がりを待つ間、陸斗りくとの登園の準備をする。小さなカバンに陸斗の親友?のウサギの人形を忍び込ませるはマストだ。ママのハンドメイド作品。これが無いと駄々をこねて幼稚園で泣き喚くのだとか。ママっ子なやつめ。


 そうこうしている内に寝室からバタバタと慌ただしい音が鳴り響く。怪獣のお目覚めだ。


「パパ、おはよう」


 まだ眠そうに瞼を擦る陸斗を着せ替え人形の様に着替えさせると、勢いそのままに食卓へと促す。


「ほら、早く食べないとママが悲しむぞ」


「はーい、いただきます」


 陸斗は時折り眠たそうに半目になりながらも黙々と箸を進める。


「やっぱりママのご飯美味しい」


「美味しいな」


 俺は自分の分の朝食を食べ終えるとママの分の朝食にも手を伸ばす。この習慣のお陰でメタボまっしぐらだ。


「パパー」


「なんだい?」


「明日からはパパのご飯が食べたいな」


「どうして?」


「だってママ毎日僕達の朝ごはん作ってたら天国行けないじゃん。僕はもう平気だよ。パパがいるからさ」


 陸斗の言葉に俺はハッとした。いつまでもママに縋っていたのは自分の方だったのだと。


「でもパパ料理作れるの?」


 俺は表面の焦げた卵焼きを口に放り込むと、


「センスはないかもな」


 とハニカミながら答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る