第70話 セカンドキャリア
国道を外れ、一本の狭い山道を登った先にその店はあった。
店と呼んでいいのか分からないほど廃れた古民家の様な外観だが、営業中というノボリに呼ばれる様に私は店へと入った。
「いらっしゃいませ」
ジェルで綺麗に頭髪を整えた強面の老人が私を出迎えた。
「おひとり様でしょうか?」
強面の老人に席を案内されると店の説明を受けた。どうやら、この店は老人達のセカンドキャリアの受け入れ先として運営している飲食店の様だ。
「しかし、ただ単にセカンドキャリアと一括りにされては困ります。私どもは全盛期を過ぎたとはいえ、その道のプロが集まっております。和食、洋食、中華、創作、ファストフードに至るまで出せない料理はございません。料金は食べ飲み放題で2000円でございます。とくと御賞味下さい。では」
強面の老人はそう言い終えると入れ替わりに優しい顔立ちの老人が現れた。
「ここからは私が担当させていただきます。私は某有名ホテルでホテルマンとして40年勤務しておりました平塚と申します。いわば接客のプロでございます。御用があればなんなりとお申し付けくださいませ」
腰が曲がり、顔のシワには年季が入っているものの、蝶ネクタイと黒いスーツの着こなしには品格さえ感じる。
平塚さんの気遣いに心を許した私は気がつくと貪る様に次々と料理を平らげていた。何を頼んでも本格的で非の打ち所がない。ワインを頼むと老人のソムリエが現れた時には驚いた。
ほろ酔いの私は大満足で会計に向かうと最初に出迎えた強面の老人がそこに立っていた。
「いやぁ、こんな素敵なお店知らなかった自分が恥ずかしいですよ。皆さんのプロフェッショナルを感じました。あなたも何か腕に覚えのあるプロなんですか?」
「はい、ぼったくりバーで40年ほど勤めておりました。それではお会計が560万円になります」
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