第68話 露天商と魔法のランプ
朝から晩まで営業回りに奔走しては、泥の様に眠る。いつからか、そんな生活がずっと続いていた。俺にとって娯楽なんてものは無く、強いて言うなら営業回りの雨風凌ぎに路地裏を散策する事位だ。
「あなた相当お疲れですね? 私分かります。少しだけお話を聞いてはくれませんか?」
とある路地裏で如何にも怪しい露天商にそう声をかけられた。怪しいとは分かってはいたが、飛び込み営業で顧客に無視を決め込まれる辛さを知っていた俺はつい足を止めてしまった。
「これです。これ」と露天商はアラジンに出てくる魔法のランプの様な物を取り出した。露天商は俺をチラッと見て、話を聞いているのを確認してから続ける。
「もし自分が2人いたら……なんて思った事ありませんか?」
「まぁ……はい」
「これはね、摩るだけで煙がブワーっと現れて自分の分身が出来るのですよ。自分が2人いたら便利でしょ? 分身に働かせたら遊んで暮らせるよ。でも、3人目は出ないからね」
なんとも抽象的な露天商の営業トークではあったが、この人も困っているのだろうと、つい購入してしまった。
満足気な露天商を見れただけで良い事をした気分になった。後はこのランプが本物なら言う事はないのだが……。
路地裏の片隅で静かに腰を下ろすと先程購入したランプを取り出して観察してみた。やけに軽く、表面に施された金色のメッキ加工は所々に剥がれて錆びている部分もある。一言で言えば安っぽい粗悪品だ。インテリアにしても主張が強すぎるし、見れば見る程胡散臭い。到底5000円の代物では無い事は確かだ。
信じてはいなかったが、物は試しと物陰に隠れながらランプをゆっくりと摩ってみた。しかし、ザリザリとメッキ加工が剥がれるだけで何も起こらなかった。
やはり騙されたか……。
さて、風が止んだら帰るとするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます