第64話 幸せの食パン

 夜中に小腹が空いた俺は、友人から結婚祝いとして貰った(幸せの食パン)とやらを戸棚から取り出した。


 友人曰く、この食パンは食べる前に軽く体の一部に押し付ける事で味が変化するとの事。


 変化の内容としては、幸せの度合いが高ければ砂糖の様に甘くなり、不幸の度合いが高ければ塩の様にしょっぱくなるらしい。


 しかし、他人の体に押し付けてから食べるとどうしても甘くなってしまうとか。


 物は試し。と俺は、食パンを一口大に千切ると自分の腕に押し付けてから口へと放り込んだ。


 これは驚いた!


 甘い。まるで角砂糖を口の中で転がしているかの様だ。


 美人な嫁との新婚生活は俺にとって、正に幸せの絶頂期。ここまで甘い食パンは食べた事も無い。


 次に俺は、興味本位で寝室で眠る嫁の額に一口大に千切った食パンを押し付けると自分の口へと運んだ。


 そして、俺は落胆した。


 確かに甘い。


 が、さっきの角砂糖の様な甘さではなく。


 なんというかそれは、そう、蜜の味であった。

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