第63話 患者の立場

 総合病院の新設に伴い、院長による医師達の決起集会が開かれた。


「私が考える総合病院の指針は、をモットーにしたいと考えております。ですので今回、全国各地から招集させて頂いた医師の皆様は実に個性豊かな顔ぶれでありながら、その道のエキスパートです。視力の低い眼科医。虫歯のある歯科医師。アトピー持ちの皮膚科医。実に素晴らしい! しかし……世間一般的に、人は皆そんな医師達を見てこう言います。そんなの医者の不養生だろ?……ってね。なんですか、その言い草は? 他人の気持ちを理解するには自分も同じ経験するのが一番なんです。自分で痛みや辛さを経験して初めて、他人の痛みや辛さが理解出来るのです! そうは思いませんか?」


 院長の熱い演説に喝采の拍手が沸き起こる。


「その拍手は、私の指針に賛同して頂けたと受け取らせていただきますね。では、何か質問のある方はおられますか?」


 次第に拍手が鳴り止みかけた頃、一人の若手内科医がゆっくりと手を上げた。


「ちょっといいすか?」


「どうぞ」


 院長の言葉の後、若手医師は両ポケットに手を突っ込んだまま立ち上がる。


「ども、内科医の安藤っす。今回俺っちは、患者の立場に立った禁煙外来のエキスパートとして来て欲しいって言われたんすけど、ぶっちゃけ俺っち禁煙者なんすけど大丈夫なんすか?」


 若手医師の質問に院長は、首を傾げながら答えた。


「今のままでいて下さい。充分、禁煙外来の患者さんの立場に立てていますよ。ほら、一度周りを見渡してみて下さい。そのぶっきらぼうな態度、皆さんに煙たがられてますよ」

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