第62話 優しい国
ここは、とある辺境の地にある人口わずか100人程の優しい国。
持たぬものには与え、望まぬ者にもまた与える。
この国の秩序は、利他的な精神で成り立っている。
居心地が良いのか、この国に訪れた旅人は皆この国に永住すると言われているとか。
そんな、国の門前に大きな袋を抱えた1人の男が現れた。
「おい! ここを開けてくれ! 早くしろ!」
慌てた様子で怒鳴り散らすその男に薄ら笑いの門兵が答える。
「どうしたのですか? そんなに大きい声を出されて」
「ここは、優しい国だろ? 追われてんだ、助けてくれ!」
「おやおや、それは大変ですね」
流暢に話す門兵に男は痺れを切らす。
「早く入れろって言ってんだろ! それか、優しい国に優しくされなかったって他の国に言いふらしてやろうか?」
「それは、困りますね。利他的じゃない」
門兵は、そう言うと大きな門扉をゆっくりと開いた。
「ふん、分かればいい」
男は、ズカズカと門扉を潜ると足早に中へと入っていった。
国の中心部に位置する大きな屋城の前で男が立ち止まる。
「国王はいるか?」
「はて? わたしに用ですか?」
屋城の窓から、真っ白な顎髭を蓄える如何にも優しそうな国王が顔を出した。
「おい、優しい国の国王さんよ。俺をしばらく、この国で匿ってくれ! 追われてんだ」
「ふむ、いいでしょう。しかし、この国にはこの国のルールがあります。これは、御理解頂けますか?」
「わかってるよ。優しい国に住みたきゃ優しい人になれって事だろ?」
「左様でございます。これからは、利他的行動をお願い致します。自己の損失をかえりみず、他者の利益を図ろうとする行動を」
「あいよ」
「時に旅人様よ。その小脇に抱える大きな袋には何が入っているのですか?」
「えっ、ああ……金品だ……分かったよ。なるほど、そういう魂胆か……国に収めりゃいいんだろ? 入国料代わりだ」
男は不満げな顔を浮かべながらも渋々、大きな袋を国王へと手渡した。
「利他的精神ですからね。申し訳ありません。時に旅人様よ。この国は今、食糧難に困っております」
「あぁ、勿論働くつもりだよ」
「いえいえ、優しい国にもう必要な労働はありません。国民に負担をかけぬ様に必要最低限の労働だけで国を支えております。しかし、あなたには、役割を与えます。時に旅人様よ。人肉は貴重な栄養源です。ありがとうございます」
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持たぬものには与え、望まぬ者にもまた与える。
この国の秩序は、利他的な精神で成り立っている。
居心地が良いのか、この国に訪れた旅人は皆この国に永住すると言われているとか。
ーー優しさの裏には厳しさがある。自己的に生きたければ
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