第59話 鬼ごっこ
俺は、今追われている。
頭から二本の角が生え、口からは鋭い牙が飛び出し、全身の皮膚は返り血を浴びたかの様に赤い、異様な生物に。
言うならば奴は……そう……鬼だ。
奴を街中で見た瞬間、俺は開いた口が塞がらなかった。そして、奴はそんな俺を見るなり追いかけて来やがったんだ。生まれて初めて死を意識したよ。
一体俺が何をしたっていうんだ。
家族や警察に助けを求めたが、どうやら奴は俺以外の人間には、見えていないらしい。
突如としてやってきた非日常に困惑しながらも俺は逃げた。本能のままに逃げ続けた。
しかし、それも、もう限界だ……。
俺は、どうにか身を隠そうと、路地裏へと逃げ込んだ。
1日中走り回ったんだ、フルマラソンの距離はとうに超えているだろう。呼吸はままならないし、足も、もう言うことを聞かなくなっている。
俺は痙攣する足を抱えて、ゴミ貯めの横に座り込むと、ポリバケツの陰に身を潜めた。
「ガバババババババ!」
近づいて来る鬼の鳴き声に俺は、絶望した。ダメだ。奴からは逃げられない。
もう逃げる気力も体力も失った俺は、座り込んだまま鬼を出迎えた。
「ガバババババババ!」
観念した俺を見た鬼は、嬉しそうにゆっくりと近づいてきた。
「ガバババババババ!」
鬼が目の前に来た瞬間、俺は極度の恐怖から体を強張らせてギュッと強く目を瞑った。
そして……。
ポン。
と、右肩に軽く手を置かれた感覚があった後、ゆっくりと目を開けると、そこには見知らぬオヤジが立っていた。
「よっしゃー。助かったー。10年もかかったぜ。おっ、兄ちゃん教えといてやるよ。自分の事を見える人間にしかタッチ出来ねえから気を付けなよ。あっ、タッチ返しは無しだぜ」
見知らぬオヤジは、そう言い残すとその場を去っていった。頭が混乱して何がなんだかわからないが……助かった……俺は助かったんだ。
「ガバババババババ」
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