第58話 天使と悪魔
仕事からの帰り道、人気の無い細い路地を通った時の事だった。
道端に財布が落ちている事に気がついた。
俺は、落とし主がいないか周りを見渡したが人の気配すら無い。
そんな時、
ビロピロピロピロリン。
メルヘンな音と共に白い羽を生やした男の子が現れた。
「僕は天使。持ち主がきっと困っているよ。警察に届けよう」
デデデーン。
今度は、不気味な音と共に黒い羽を生やした男の子が現れた。
「僕は悪魔。持ち主はもう諦めてるさ。ネコババしてしまえ」
ピンポーン。
次は、インターホンの音と共にスーツ姿の男が現れた。
「私は仲裁人。どうかこの魔法の杖で天使と悪魔、必要の無い方を消し去って下さい。では、私はこれで」
仲裁人を名乗る男はそう言うと俺の右手に魔法の杖を握らせ、姿を消した。
何となく状況を理解した俺は、
「えい」
と、迷う事無く、天使に向けて魔法の杖を振りかざした。
すると、天使の姿は徐々に薄くなり、悲しそうな顔を浮かべながら消えていった。
一方、悪魔は喜びを隠せないのかその場で飛び跳ねている。
「いえーい、俺を選んだって事はネコババするんだな?」
悪魔の問いに俺は、
「そんな事はどうだっていい。俺からも悪魔に質問だが、天使という対立した相手が居なくなった今、どういう気持ちだ?」
「嬉しいさ。これで俺の主張が全て通るからな」
「なら、悪さを勧めるのがお前の本当の主張なのか? 本当の本当は違うんじゃないのか? 自分の存在意義、居場所、価値観を見い出す為、天使に反発するしか道が無かったんじゃないのか? ある意味、俺は天使の方が悪い奴だと思っている。圧倒的な善人は、平凡な人をも悪人に仕立て上げるんだ。例えば、1組の兄弟がいて、兄は町内のゴミ拾いボランティアを日課にするいい子だとしよう。弟はボランティアをしないだけで、ダメな子のレッテルを貼られるわけだ。つまり、いき過ぎた正義は誰かを陥れる可能性に繋がるわけだ。この場合、悪魔のお前は陥れられただけなんだろ? 普通でいいんだよ。普通で。」
俺の語り掛けに同意してくれたのか、悪魔は涙を流しながらゆっくりと頷いたのだった。
そして、次の瞬間、悪魔の黒い羽はポロポロと背中から剥がれ落ちていった。
「ありがとう」
元•悪魔はそう言い残すと泣きながら笑うという不器用な表情で姿を消していった。
「ふぅ」
俺は、もう一度周りを見渡すと、足元の財布を拾い上げ、誰にも見られる事なく、懐へと入れたのだった。
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