第57話 空き巣

 パリン……。



 ソファーでくつろいでいると、カーテン越しに小さく窓ガラスの割れる音が聞こえた。



 まさかな……。



 空耳だろうと、不審に思いながらも私は物音を立てない様にゆっくりと首だけを動かし、その音の方へと視線を移した。



 微かに揺れ動くカーテンに目を凝らす。



 カチャ……。



 続いて、窓の鍵が動く音がした。



 動揺はしたものの私は冷静に一呼吸置き、狭いワンルームの一室で瞬時に身を隠せる場所を思考し、ソファーからベッドの下へとサッと体を滑り込ませた。



 ガラガラ……。



 その間3秒も経たずに何者かが部屋へと入ってきた。



 高鳴る鼓動を抑えようとゆっくりと呼吸をするも、ベッドの下に溜まった小さな埃が鼻を突き、むず痒くなる。



 こういう危機的状況だからか、いつもより感覚が研ぎ澄まされている自分に驚いた。



 何者かは、タンスや机の引き出しを漁っているのか、



「ダン、ダン、ガサゴソ」



 と荒々しく物音を立てている。



 私は目を瞑り、何者かが去るのを祈る気持ちでジッと待った。



 数分後、何者かの「チッ」という分かりやすい舌打ちが聞こえると、



 ガラガラ……。



 と窓の動く音が聞こえた。



 暫しの静寂の後、何者かの気配が完全に消えたのを感じとると、私はベッドの下から這い上がり、おもむろに机の上にあったティッシュに手を伸ばして、むず痒かった鼻を思い切りかんだ。



「ふぅ……」



 さっきの人も狙いはいいけど、ちょっと遅かったね。



 私は鼻をかんだティッシュをジュエリーと現金でパンパンに膨らんだ上着のポケットにねじ込むと、意気揚々と何処ぞの誰かが住むマンションの一室を後にした。

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