第52話 わらしべ

 少年は困っていた。



 母親が原因不明の病で倒れたが、お医者さんに看てもらうにも家が貧乏な為、そのお金が無いのだ。



 少年は咳き込む母親を見つめながら大きな溜め息を「はぁー」とついた。



 そんな時、ふと少年の脳裏に(わらしべ長者)の話が浮かび上がった。



 これだ! と思った少年は居ても立っても居られず、



「お母ちゃん、待っててね」



 とだけ母親に言い残し、朝食のバナナを手に取ると颯爽と家を飛び出した。



 少年は町に繰り出すと早速、青年に声を掛けられた。



「君が持っているのはバナナかい? 僕お腹がペコペコなんだよ」



「良ければ、どうぞ」



「いいのかい? なら、御礼にこのペンダントをあげるよ」



 少年は、この方法で何十回と物々交換を続けていった。



 ーーそれから5時間後



「お母ちゃん、ただいまー」



 少年は、晴々しいほどの笑顔で家路についた。



「あぁ、おかえり」



「お母ちゃん聞いて聞いて」



「なんだい?」



「バナナが豪邸になったよ!」



「あぁ、そうかい……」



 ーー人間は欲をかく程、本質を見失う。

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