第53話 お義父さん
一ヶ月程前から私は毎日、私の娘とメールのやり取りをしている。
そんな今日、私の娘が婚約者とやらを家に連れて来るらしい。
会った瞬間にとりあえずブン殴ってやる予定だ。
そんな事を考えていると、スマホに一通のメールが届いた。
(今から家に行くよー♡)
私の娘からだ。
(うむ)
そう一言だけ返信すると、スマホをソファーへと投げ捨てた。
私は取り急ぎ玄関へ向かい、腕捲りをして仁王立ちで待ち構える。
すると、1分もしない内に、
ピンポーン。
と試合開始の合図を告げるチャイムが鳴った。
扉を開けると、恥ずかしそうにハニかむ思ったより幼い私の娘とひ弱そうなスーツ姿の男が一人。
そして、私の娘が俯きながら口を開いた。
「お父さん、久しぶり……この人が婚約者のタカシさん……約束の結婚費用、百万円用意してくれた?」
私は、私の娘とやらをブン殴り、一喝した。
「私に娘などおらんし、生涯独身じゃ! 詐欺をするなら、もっとリサーチをしなさい! しかし……1ヶ月の間、こんな老いぼれの相手をしてくれてありがとうな」
私は、百万円の入った茶封筒をそっと地面に置くとゆっくりと玄関の扉を閉めた。
しかし、次の日、茶封筒は百万円が入ったまま玄関の前に置いてあった。
そして、それからも私と私の娘とのメールは続き、今では1週間に1度は食事を共にする程だ。
私の娘曰く、身内が事故で亡くなって高校を中退し、自暴自棄になると寂しさや金欲しさの為に詐欺師グループに入っていたらしい。
まぁ、そんな理由や根拠はどうでもいい、嘘さえ愛せる度量があれば……なんて思いながら養子縁組の手続きを済ませる昼下がり。
ーー嘘から始まる本物があってもいいじゃない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます