第42話 魔物

 勇者は(魔物殺しの大剣)を空に掲げ、瀕死の魔物に言い放った。



「お前が最後の魔物だ! お前を倒して平和な世界を手に入れる!」



 すると魔物は、不敵な笑みを浮かべながら勇者に問いかけた。



「本当にそれでいいのか?」



「なにがおかしい!」



「ぬしは必要悪ひつようあくという言葉を知らぬのか?」



「どういう事だ!」



「ぬしは、ワシを倒すと魔物を打ち滅ぼした勇者として町の皆から崇められ、優越感に浸れるであろう。しかしどうだ、その(魔物殺しの大剣)を作った武器屋の商人はどうなる? 平和な世界に武器屋? いらない、いらない。職を失い、生き倒れるのが目に浮かぶ」



「そ、そんなの分からないだろ! その時は、みんなで協力しあって……」



 魔物が遮る様に口を挟む。



「人が人して生きていく中で、最も辛いと思う事は何だかわかるか?」



「職を失った時?」



「違う」



「ご飯が食べれない時?」



「違う、必要とされなくなった時だ」



 勇者は、武器屋の商人が店内に並ぶ(魔物殺しシリーズ)を意気揚々と勧めてきた時の事を思い出した。



「クソ! 次はないからな!」



 勇者は、(魔物殺しの大剣)を(魔物殺しの大剣入れ)に収めると(魔物殺しの手袋)をはめ、(魔物殺しの手綱)を引き、(魔物殺しの馬)に乗って魔物の前から去って行ったのだった。



 馬鹿と真面目は紙一重ーー

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