第41話 幸せの定義

 長年、動物の研究をしている、とある研究者が犬の翻訳機を開発した。



 しかし、この研究者にとって翻訳機の発明が研究のゴールではなかった。



 研究者は、この翻訳機を使って調べたかったのだ。犬にとっての幸せの在り方を。



 研究者は1年程前から翻訳機の研究を進める一方で、検証として3匹の捨て犬を河川敷で拾い、家に招いていた。



 Aの犬には、首輪を付け、ゲージにいれた。その代わり、1日に3度の散歩をする。



 Bの犬には、首輪をせず、家の中で放し飼いにした。散歩はしない。



 Cの犬には、首輪もせず、雨の日以外は庭で放し飼いにした。



 エサは3匹共、平等に与え、褒めたり遊んだりのスキンシップも平等にした。



検証ではあるが、3匹共飼い犬として本当に可愛がった。



 さっそく研究者は3匹の率直な意見を聞こうと、完成した翻訳機を握りしめ、急いで家路についた。



 研究者は、3匹の犬を集めると翻訳機を起動させ、話しかけた。



「翻訳機を作ったんだが、僕の声がわかるかな?」



 A、B、Cの犬が翻訳機を通して口々に答える。



「わかるよ」



「うん」



「はい」



 その返事を聞いて、研究者が話を続けた。



「僕は君達に聞きたい事があるんだ」



「なーにー?」



「なに?」



「なんですか?」



「君達の中で1番幸せなのは誰なんだい?」



「私!」



「俺!」



「僕です!」



「どうして、そう思うんだい?」



 すると、3匹は声を揃えてこう答えた。



「「「ご主人が可愛がってくれるから!」」」



 この時、研究者は微笑ましくなると同時にこう思った。



 環境や境遇だけで幸せを計る事自体が間違っていた。



 幸せとは、与えられるものではなく、感じるもの。



 お金も地位も名誉も無い赤ん坊が人一倍笑うように。

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