第40話 優しさボタン

 女手一つで育ててくれたお母さんが他界した。


 悲しむ暇も無く、お母さんの遺品を整理していると、懐かしい物が出てきた。


 優しさボタンだ。


 正しくは、小学生の時、母の日のプレゼントでお母さんへあげた段ボール製の爆破スイッチの様なボタン。


 裏面には、(このボタンを押した人は、優しさが爆発します)と汚い字で綴ってある。


 今にして思えば、とても皮肉めいたボタンだ。


 まぁ、当時の私からすれば、わからなくもないか……。


 お母さんは異常な程、私に厳しかったのだ。


 勉強、習い事、私生活、全てにおいて褒められた覚えがない。むしろ、叱られてばかりだった。


 そこで、お母さんに優しくして欲しい一心で考えたのが「優しさボタン」だった。


 しかし、そんな私の浅はかな期待を裏切る様に、お母さんは優しさボタンを押しても尚、私を叱り続けたっけな……。


 私は懐かしくなり、優しさボタンを手に取ると、ボタンをポチッと押してみた。


 すると、ボタンの底がポロッと外れ、中の空洞から一枚のメモがヒラヒラと床に舞い落ちた。


(優しく褒めてあげられなくてごめんね。辛いよね? お父さんがいなくてごめんね。寂しいよね? でも、寂しさを感じる暇が無いくらいにビシバシ立派に育ててあげるからね)


 優しさとは、一体なんなのだろうか。


 少なくとも、お母さんは、とても厳しくて、とても優しい人だったようだ。

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