第39話 黄色いニワトリ

 午前4時ーー



「コケコッコー」



 ニワトリ小屋から、高らかなニワトリ達の鳴き声が響き渡る。



 そんな中、黄色いニワトリだけは、今日も鳴かなかった。



 寝ているとか、鳴けないとかでは無く、鳴かないのだ。



 しかし、何もしていない訳でもなく、ただバサバサと羽を動かしている。



 同じニワトリ小屋のニワトリ達は、そんな黄色いニワトリの事を揶揄する様にこう呼んでいる、「大きいヒヨコ」と。



「おい、大きいヒヨコさんよ!」



 一羽のニワトリが、突っかかる様に黄色いニワトリを呼んだ。



「なんだい?」



 黄色いニワトリは羽を止め、呼びかけに答える。



「おめー、今日も鳴かなかったみてーだな? まさかまだ、子供ヒヨコみてえに『ピヨピヨ』としか鳴けねえんじゃねーか?」



「うーん……僕は鳴きたくないから鳴かない。それに、他にやる事もあるし」



「ハハハハ、なんだそれ? やる事って、羽をバサバサする事か? 外見の色も中身も子供ヒヨコじゃねーか」



 その会話を聞いている周囲のニワトリ達もクスクスと笑っている。



「じゃあ、君はどうして毎朝同じ時間に鳴くんだい?」



「どうしてって……ニワトリは朝に鳴くもんだからだよ!」



「それは、どうして?」



子供ヒヨコから大人ニワトリになったら、鳴かないといけねえの!」



「やらなきゃいけない事をやるのが大人? やりたい事をやるのが子供? それって、大人になるにつれ選択肢が増えていく中で、出来る事だけを選択する様になった言い訳じゃないの? なら、僕は子供ヒヨコのままでいいや。この羽を使ってどうしても、飛びたいからさ」



 呆れた顔をする周囲のニワトリ達を余所目に黄色いニワトリは、また小屋の片隅で羽をバサバサと動かし始めた。



 黄色いニワトリは、今日も周囲に染まらない。自分の色で、いつか大空を羽ばたく、その日を夢見て。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る