第36話 カレー

 とある地域の夏祭り会場でその事件は起きた。



 地域の婦人会が提供したカレーを食べた直後、人々が揃って体調不良(倦怠感、眠気、脱力感)を訴えたのだ。



 原因は、カレーに溶け込んだ大量の睡眠薬。



 もちろん夏祭りは、中止となり、警察や救急隊が入り乱れる大惨事となった。



 すぐさま警察は、事件性があるとみて、婦人会でカレーを担当していた田辺さんに疑いをかけた。



 早速、周囲の聞き込みを始めた警察だったが、田辺さんの評判の良さに驚いた。



 聞き込みの情報をまとめるとこうだ。



 勤勉で真面目、責任感も人一倍強く、共働きで料理は苦手としながらも美味しいカレーの作り方をこの夏祭りに合わせて追求していた。



 との事。



 続けて、警察は田辺さん本人の任意同行のもと、取り調べをする事にした。



「田辺さん、あなたがカレーに大量の睡眠薬を入れたという事で間違いないですか?」



「はい、間違いないです」



「動機は?」



「地域の皆さんに美味しく食べて欲しかったからです」



「ふざけるな!」



 取り調べを担当した刑事が怒鳴る様に声を荒げた。



「ふざけてないです……」



 刑事の声に田辺さんは萎縮する様に肩をすくめる。



「じゃあ、あなたが言ったことが本当なら、地域の皆さんに美味しく食べて欲しかったから、睡眠薬を入れたのですね?」



「はい……カレーは寝かせた方が美味しいとネットで見たので……」

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