第35話 レンタル

 人と人との繋がりが希薄になった時代、厚生労働省が提案した新たな人付き合いの形として、「様々な人付き合いのレンタル形態」が確立された。



 レンタル彼氏。



 レンタル彼女。



 レンタル友達。



 レンタル上司。



 等、そのニーズや形は多岐にわたる。



 人々は、これらの人付き合いを必要に合わせてレンタルする事で、「都合良く作れる」ストレスと寂しさの無い社会を築き上げたのだった。









 そんなある日、一人の男の子が、とある公園のベンチでレンタル彼女へ、こんな苦言を呈した。



「なんか君さー、完璧過ぎて、つまらないんだよね……」



「失礼致しました。直ちに改善させて頂きます。並びに貴重なご意見ありがとうござい……」



「あー、もういいよ。返却で」



 男の子は、レンタル彼女の声を遮る様に、余りに素っ気なく別れを切り出した。



 男の子は、気付いてしまったのだ。



「都合良く作れる」寂しさとストレスの無い社会。それは、同時に「空虚」という虚しさを生み出す社会なのだと。



 本物の繋がりでしか、満たされない気持ちもある。きっとそうだ。



 男の子は、そんな事を思いながらフラフラと歩き、気付くと自分の家の前に立っていた。



「ただいまー」



「おかえりー……って、どうしたの、そんな、ニコニコして」



 男の子のニヤつきにお母さんは首を傾げる。



「いや、なんかお母さんがお母さんで良かったなって」



「何言ってんのよ」



「お母さん、そんな事より、何か家事で手伝える事ない?」



 清々しい顔でそう言う男の子に、お母さんは少しためらいながらこう言った。



「なんか君さー、完璧過ぎて、つまんないんだよね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る