第34話 接待ゴルフ

 男は、社運をかけた接待ゴルフの真っ最中であった。



「ナイスショット!」



「ふん、まぁこんなもんだな」



「いやー、流石です社長! 我が社の育毛剤を使ったかの様に球が伸びる伸びる!」



「わはははは、きみ上手い事言うね。どれ、きみの会社で取り扱っている育毛剤とやらを見してはくれんか?」



「はい、喜んで!」



 男は、ゴルフカートの中で、他社製品との違い、成分、効果、自社の育毛剤のあらゆる利便性を事細かに説明した。



 そんな、男の熱心な姿勢に社長も頷きながら、真剣に男の話を聞いた。



 全ては、男の思惑通りに事が進んでいる……か、に見えた社長のセカンドショット。



 事件は、起きた。



 社長の放った打球が、池へ向かって一直線に転がって行ったのだ。



 遠くからでは池に落ちたかどうか、わからなかった男は、ポケットに代えの球を忍ばせると、すぐさま打球の行方を追い、池へと走りだした。



 男は、池の近くに来るとつい気が緩み、足を絡ませて豪快に転んだ。と同時に男の頭から池へ、黒い物体が飛んで行った。



 ポチャン。



 ゴポゴポ、ゴポゴポ。



 ゴポゴポ、ゴポゴポ。



「あなたが落としたのは、この金のカツラですか? それとも、この銀のカツラですか?」



 突然目の前に現れた女神の問いに、男はツルツルの頭を抱えながら口を開いた。



「いいえ、私が落としたのは、信用です」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る