第31話 ジャッカル

 とある強盗団にジャッカルという凄腕の強盗がいた。



 金品、美術品、ジュエリー、ジャッカルの手に掛かれば奪えない物は何もない。



 例えそれが、警備の厚い美術館や豪邸であってもだ。



 そんなある日、ジャッカルが何も持ち帰らずにアジトへと帰った。



 アジトのメンバーはみな驚いた。



 それも、そのはず、今回のジャッカルの任務は戸締りもろくにしていない貧乏な一軒家で、元プロ野球選手のプレミアが付いたバットを奪ってくるという平凡な任務だったからだ。



 ジャッカルの任務失敗に、みなが驚きを隠せない中、組織のリーダーであるスコーピオンが険しい目つきで口を開いた。



「おい、ジャッカルよ。おめー、こんな簡単な任務で、なにヘマしてんだよ!」



 スコーピオンの怒号にピリつく室内。



「すみません、子どもがバットを抱えて寝ていたもんですから……」



「はっ? おめー、そんなもん縛り付けてバットだけ奪ってきたらいいだろうが! なめてんのか!」



「それに、そのバットの持ち手には、その子どもの血がついていて……」



「何年この仕事してんだ! 血なんて洗い流しゃあすぐ売り捌けんだよ!」



「他にも、少年野球チームの写真があったり……」



「おめー、さっきから何言ってんだよ! おい! こいつもう使いもんにならねぇ、抑えつけろ!」



 ジャッカルは抵抗する事もなく仲間の手により壁へと抑えつけられた。



「おい、言い残す事はないか? 俺もお前を失くすのが惜しい……が、それ以上に大人の言い訳なんて聞きたくもねぇ」



 スコーピオンがジャッカルの眉間に銃口を突きつける。



 ジャッカルは、うな垂れた顔を上げると真剣な表情で言い放った。



「澤井……後にプロ野球選手になる男の名だ! 覚えとけ!」



 突拍子の無いジャッカルの発言にみなが嘲笑った。



「ハハハハハ、薬でもやったか? やっぱり、こいつもう使いもんにならねぇわ」



 スコーピオンはそう言うと銃の引き金に指を掛け、再度ジャッカルに聞いた。



「ジャッカルよ、最後にもう一度聞く、何故奪ってこなかった」



「奪えなかったんです……子供の夢だけは」



 バンッ!

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