第29話 初恋

 ある日、男の子は学校から帰るとお母さんに尋ねた。



「ねぇねぇ、お母さん、なんだか今日胸の辺りがズキズキ痛むんだ」



 お母さんは、心配になって男の子に駆け寄るが外傷らしきものは見つからなかった。



「いつから痛いの?」



「うーん、同じクラスのナツミちゃんと喋ってた時からかな……」



 男の子の返答にお母さんは胸を撫で下ろすと、微笑みながら口を開いた。



「それは、恋ね」



「恋?」



「そうよ、でも、とってもいい事なの。胸がズキズキ痛む程相手の事を考えちゃうのが恋。つまり、タカシはナツミちゃんの事が好きって事よ」



「うーん、よくわからないよ。僕はどうしたらいいの?」



「逆にタカシがナツミちゃんの胸をズキズキさせる事が出来たら両想いって事で幸せになれるの。でも、まずは想いを伝える事が大事かもね」



「へー、そうなんだ。僕もナツミちゃんの胸の辺りをズキズキさせたい」



「ふふふ、がんばってね」



 次の日ーー



 男の子は放課後に意中のナツミちゃんを体育館裏へと呼び出した。



「どうしたの? タカシくん」



「ナツミちゃん、もうちょっと前に来て」



 ナツミちゃんは不思議そうに首を傾げながら、男の子へと近寄る。



「ナツミちゃん好き!」



 男の子はそう叫ぶと、ナツミちゃんの胸の辺りに腰の入った正拳突きをお見舞いした。

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