第28話 認知症

「おい!」



 ボケ老人が私を呼んでいる。



 どうせ、いつもの事だろう……。



「はーい」



 私は返事をして、ボケ老人へと歩み寄る。



「どうしました?」



「わしのメガネはどこだ?」



「頭に乗っけてますよ」



「犬の散歩行ったか?」



「犬なんか飼ってませんよ」



「恋するメンチカツ」



「なんですか、それ?」



「こんにちは」



「はい、こんにちは」



「それにしても腹が減ったな」



「五分前に食べてましたよ」



「久々にチェスでもするか?」



「一回もした事無いですよ」



「仕事に行ってくる」



「二十年前に引退しましたよ」



「なに握りましょう?」



「だから、寿司職人は二十年前に引退しましたってば」



「なに握りましょう?」



「もう、だーかーらー……」



「なに握りましょう?」



 ボケ老人の真剣な表情に少し照れながら、私は今日も答えてしまう。



「じゃあ……いつもの……」



「あいよ」



 ギュッ。



 ボケ老人は私のシワだらけの手を手に取ると、愛おしそうに握りしめてくれた。









ボケて尚 古ボケぬ愛 老夫婦ーー

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