第19話 被りもの

 純粋無垢な女の子。



 それが彼女に抱いた第一印象だった。



 襟付きのシャツを第一ボタンまで閉めるあたり、育ちの良ささえ感じ取れる。



 黒髪にショートカットの髪型がガードの固さを醸し出しつつも、時折見せるドジな一面がまた俺の中の男をそそった。



〝ダメだ!我慢しろ!喰い時は今じゃない!〟俺は自分自身にそう言い聞かせて平静を保っていた。



 すると、彼女は俺の目を見てこう言った。



「リョウさんって、前髪横に流して一見チャラそうなのに〝草食〟って感じで可愛いらしいですね」



「えー、それって馬鹿にしてる?」



「ううん、カッコいいです」



 ふん、草食? バリバリの肉食だ。



〝羊の皮を被った狼〟とは良く言ったものだ。



 でも、こんな無垢な女の子に初対面で狼を出すのは良くない、今日は家まで送ろう。



「よし、今日は帰ろうか?」



「えー、私酔っ払っちゃったからリョウさんの家に泊まりまーす」



 気付くと彼女は、シャツの胸元を大胆に開け、分かりやすく挑発してきた。



 なるほどね。



 羊の皮を被った俺に対して、彼女はどうやら〝猫を被っていた〟ようだ。



 とんだ、被り合い合戦だったわけか。



 純粋無垢な女の子だと思っていたのになんだか悔しくなった。



 しかし、残念ながら俺の方が一枚上手だったようだな。



 俺は被っていたカツラを外し、ビールジョッキの上にそっと乗せた。

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