第16話 殺人

 僕はパニックだった。



「君は、人を殺したんだね?」



「……」



「言わなくてもいい、見たらわかるよ」



「……」



「僕は君のことを昔からよく知っている。何か事情があったんだろ? 何となくだけど、わかる気がするよ」



「……」



「とりあえず、右手のナイフを離そうか」



「……」



 カチャン。



 べっとりと血の付いたバタフライナイフが足元に転がった。



「まず落ち着いて、ゆっくり深呼吸をしよう。僕に合わせて、さぁ」



 すぅー、はー。



 君は僕に合わせてゆっくりと深呼吸をした。



「そうそう、なんだか僕も落ちついたよ」



「……」



 落ち着くと、理解した。



 そうか、そうだった。



「ふふ」



 不意に可笑しくなり、僕は笑った。



 鏡の中の君も血まみれの顔で笑っている。



 当然だ。



 僕は君で、君は僕なのだから。

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