第12話 仙人

 女は、ひたすら山を登った


 その山道はひどく険しい事で有名だった。


 しかし、女はひたすら山を登った。


 反り立つように急な斜面、触れただけで崩れそうな岩山、舗装されていない道には登山者を拒むかのような草木が生い茂っている。


 それでも、女はひたすら山を登った。


 齢六十の女にとってみれば、その山道は命がけといっても過言ではなかった。


 そして、女は遂に辿り着いた。


 人気の無い山奥にポツリと佇む小さな山小屋へと。


 女はどうしてもここに来なければいけなかった。


 ここには、「どんな願いもちゃんと聞いてくれる」という仙人がいると聞いたからだ。



 今まで、何度も神や仏に願ったが一度も願いを聞いてもらえなかった。


 そんな女が最後に辿り着いたのが人間である仙人の所だったのだ。


 仙人が現れると女は息を整え、大きな声で願いを言った。


「結婚して子供が欲しいです!」


「そうですか、頑張って下さい」


 仙人は、女の目を見て軽く頷きながら、ちゃんとした姿勢で願いを聞いた。

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