第11話 天使

 ある夜、男の子の前に天使が現れた。


「なんだい? 君は?」


 男の子はベッドから飛び起き、天使に訊ねた。


「やぁ、僕は願いを叶える天使、君の強い想いが僕を呼んだんだ」


「えっ? 強い想い?」


 男の子は白々しく首を傾げた。


「恥ずかしがらなくてもいいよ。雨の日にいつもバスで一緒になる女の子が好きなんだろ? いつも舐め回すようにジロジロ見てるじゃん」


「それは、そうだけど」


 男の子はモジモジとしながら顔を赤らめた。


「そうだ、その女の子が君の事を好きになる魔法をかけてやろうか?」


 天使がそう言い、魔法のステッキを回そうとすると男の子が力強く叫んだ。


「ダメ!」


 天使は、男の子の突然の大声に目をつぶって驚く。


「ごめんよ、突然大きな声を出して。気持ちは嬉しいんだけど、やっぱりこういうのは自分でどうにかしないとダメだと思う。でも、おかげで自分の気持ちに素直になれた気がするよ」


 男の子は相変わらず顔を赤らめながらも、その表情は決意で満ち溢れていた。


「そしたら、僕は用済みだね」


 天使はわかりやすく肩を落としてしょんぼりとした。


 男の子は少し考えた後、天使にこう提案した。


「じゃあさ、雨を降らせてよ。そしたら、バスの中であの子に会えるし、ラブレターでも渡してみるよ」


「なるほど、それならお安い御用さ」


 天使は魔法のステッキをクルリと回して雨を降らせてみせた。


 ザーッ。


「明日の昼までは振り続けるから安心して」


 天使はそう言い残すと男の子の前からスーっと消えていった。


「ありがとう、天使さん。おれ頑張るよ」












 一方その頃、隣街にて。


 ザーッ。


 女の子は窓ガラス越しに突然降り出した雨を見つめていた。


「やぁ、僕は願いを叶える天使、君の強い想いが僕を呼んだんだ」


 女の子は天使の声を聞くなり即答した。


「そしたら、雨を止ませてください。雨の日にバスに乗るとジロジロ見てくる男の子がいるんで気持ち悪いんです」

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