第9話 絶品のスープ

 俺はラーメン屋の行列に並んでいた。


 聞く話によると、この店のスープは麺がいらないほど濃厚で絶品らしい。


 午後3時にも関わらず、店の前には20人ほどの行列ができており、この店の人気ぶりが見て取れる。


 店内に近づくにつれ、ダクトから漏れ出る上品なスープの匂いが鼻先から食欲を刺激した。


 目を閉じ、今か今かと妄想を掻き立てる。


 行列は徐々に進み、俺の順番まであと二人となったところで店員が入り口からヒョッコリと顔を出した。


「すみませーん、先頭の方でスープと麺が最後になります」


 店員の一言をキッカケに俺から後ろの行列は蜘蛛の子を散らすかのようにそそくさと店から去っていった。


 俺は、目の前で途絶えたラーメンにどうしても納得がいかず、店員に詰め寄った。


「ちょっとだけでもないの? 一口だけでも、なんでもいいから、こっちは待ちすぎて腹ペコなんだよ」


 店員は困った顔をするだけで何も答えない。


 見かねた先頭のおじさんが俺と店員の間に割って入った。


「俺の分のラーメンを半分、この兄ちゃんに分けてやってくれよ」


 おじさんはそう言うと、店員の耳元でゴニョゴニョと耳打ちをした。


 店員は苦い顔をしながらもおじさんの提案に頷いた。


「ありがとうございます!」


 俺は思わず、おじさんに抱きついた。


「いいんだよ、ここはスープが美味いんだ」







「へい、お待ち!」


 店員は俺の目の前に、ざる蕎麦のようにこんもりと盛られた麺だけを置いた。

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