第8話 シンガーソングライター
繁華街の片隅で彼女は今日も歌っていた。
お世辞にも上手いとは言えない歌声だが、私は毎日ここで足を止めてしまう。
「はい、こんにちは。今日もいい天気ですね。はい、では今日も拍手喝采目指して頑張っていきましょう」
今日も彼女の雑なMCで路上ライブが始まった。
「それでは最初の曲は(理不尽な貴婦人の魔方陣)です」
こんな攻めた曲名では、ファンが付かないのも納得がいく。
周りを見渡すが、やはり今日も観客は私一人のようだ。
忙しない群衆はまるで彼女が存在していないかのように彼女の目の前を通り過ぎて行く。
寂しい奴らだ。
せめて、私だけでも彼女の味方になってやらないと。
私は、今日も恥ずかしげも無く大きな拍手で彼女のライブを盛り立てた。
〝パチパチパチパチ〟
横目に若者が近づいてくるのが見えた。
「うるせーんだよ、クソじじい、毎日壁に向かって拍手して気持ちわりーんだよ」
それでも私は拍手をやめない。
私だけでも彼女の味方になってやらないと、彼女はきっと成仏できないのだから。
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