第7話 老人

「人生を変えたくはないかい?」


 老人は、そう言うと寒さで震える俺の頬を札束でペチペチと叩いた。


 百万、いや、二百万はあるだろうか。


 こんなにまとまったお金を持っているなんて驚いた。


「さぁ、受け取りたまえ。私はもう先が短い」


 老人はそう言うと俺に札束を差し出した。


 俺は老人が差し出した札束を手のひらでグッと押し返した。


「お気持ちは有り難いのですが、結構です。私には必要ありません」


 老人はボロボロの上着に札束をしまうと寂しそうに去っていった。


 寂しさから人の気を引きたくて、札束を差し出すなんて、間違いなくあの老人は認知症なのだろう。


 可哀想に。


 この時代におけるお金の価値なんて燃やして暖をとれる程度だ。


 それにしても、お金なんて初めて見た。


 少し歴史に触れた気がして嬉しい。


 はぁ、俺が生きている間に今回の氷河期は終わるのだろうか。

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