64 妖精の喧嘩と始まりの力15
壁のようにわたしたちの前にそびえ立った氷の盾。
キレイな花びらのようにこおって、お花の形のような氷が咲いた。
そして、それと同じようにわたしの胸元にも氷の華が咲いた。
まるでブローチみたいに、キラキラ透き通った氷でできたお花が胸の真ん中に現れた。
胸元のお花も、そしてわたしたちを守ってくれたお花の盾も、両方ともわたしの心の奥底から飛び出したものだってわかる。
わたしの心につながっている、あられちゃんの気持ちが力を貸してくれてるんだって、そう思えた。
いつもと同じ心の熱さと、あられちゃんとつながっているあったかさ。
その二つの力がわたしの心と体をいっぱいにして、今ならなんでだってできるって思った。
「オレの炎を氷で防ぎやがった、だと!?」
『やくめ』をおえた氷の盾がホロホロとくずれて、『どうよう』しているチャッカさんが見えた。
元々赤い顔をさらに真っ赤にして、歯をガリッと噛みながらわたしたちをにらむ。
わたしはそんなチャッカさんを見上げてから、すぐにレオとアリアに目を戻して駆け寄った。
今もう何もこわくないって思えたから、まずはレオのことが心配でたまらなかったんだ。
「レオ、大丈夫!?」
「大、丈夫だ……それよりもお前、今のは……」
「そんなのいいから……!」
肩を押さえているレオの手は真っ赤で、その顔は青白くなっていた。
だっていうのにわたしのことを心配するような顔をするもんだから、わたしピシャッと言葉をさえぎった。
アリアはまだレオのケガにあたふたしていて、涙でぐちゃぐちゃの顔ですがりついたまま。
ちょっとした傷はよく魔法で治してくれてたけど、血がいっぱい流れてる傷はむずかしいのかな。
そう思いながらわたしがレオの肩にさわると、傷口がポワッと温かく光り出して、血の流れがゆっくりになった。
傷が治っていく。それが目に見えてわかった。わたしの力が、レオの傷を治してく。
レオの顔色もそれに合わせてすーっと良くなっていった。
「アリス、お前、これ……」
「言いたいことは、わかるけど……こんな時くらい自分のこと考えてよ」
わたしが力を使っていることに、レオは『ふくざつ』な顔をする。
でもそんなことよりもわたしはレオのことが心配で、何か言いたそうなその顔をムシした。
そんなわたしにレオもそれ以上は何も言わなくて、だまって光を受け入れた。
「チャッカさん、もうケンカなんてやめようよ!」
血が止まって、傷口がふさがったことを確認してから、わたしはもう一度空に浮かんでるチャッカさんを見上げた。
チャッカさんはわたしたちのことを『けいかい』した目でにらみながら、イライラした顔をしている。
「わたし、もうだれにもケガしてほしくないよ。わたしの友達にも、もちろんチャッカさんにも」
「う、うるさい! そうやって油断させて、その力でオレたちを消すつもりなんだろ! オレの力を圧倒的に凌駕する、ドルミーレの魔法の力で……!」
「わたし、そんなことしないよ!」
やっぱりチャッカさんは聞く耳を持ってくれない。
わたしが力を使ったから、よけいにわたしのことを『けいかい』してる。
「他人なんて信じられねぇ。そのことはもうよくわかった。ずっと長い間この国を手伝ってきたのに、こんな追い出され方をしたんだ。オレたちは、オレたちをだけを信じる!」
チャッカさんはブルブルと頭をふりながら、わめくように叫んだ。
女王様に一方的に追い出されて、とっても傷付いてこまってる。
その気持ちでいっぱいで、人のことを考えてる『よゆう』なんてないのかもしれない。
チャッカさんが大きく腕をふり上げると、燃えている山から炎が集まってきて、チャッカさんの周りをグルグルと回った。
まるで炎のたつまきみたいにうずまいて、チャッカさんを中心に熱い風を振りまく。
「オレたちは消えない。オレたちの炎は消させない。どんな手を使っても、オレたちは生き延びて、いつか国に帰るんだ……!」
そして、炎のうずまきがバーっとほどけて、たくさんの炎が波のようにふりかかってきた。
わたしたちのことなんて軽々飲み込んで、この氷の木の林もぜんぶとかしちゃおうとしてるみたいに。
レオもアリアもソルベちゃんも、みんなハッと息をのんだ。
目の前がぜんぶ炎でいっぱいで、とてもどうにかなるなんて思えなかったから。
でもそんなの、わたしはぜったいにいやだ……!
「わたしの友達に、ひどいことしないで!」
だからわたしは、そうつよく叫んで一歩前に出た。
その瞬間、またわたしの胸から冷たく透き通った力が駆け抜けて、わたしからふぶきのような衝撃がぶわーっと広がった。
冷たい風の波のような、透明な力が一瞬で広がってふってきた炎の波にぶつかる。
すると炎はあっという間に消えちゃって、わたしのふぶきだけがぐんくんとのぼっていった。
炎のその先、チャッカさんにむかって。
「なに!?」
そしてふぶきがチャッカさんを飲み込んだ。
チャッカさんはあわてて自分の体の炎を強くしたけど、ふぶきにつつまれたせいで炎はすぐにしぼんじゃう。
空に浮かんでいるだけの力がなくなっちゃったのか、チャッカさんは弱々しい燃え方でゆらゆらとゆっくり下に落ちてきた。
「っ…………」
ゆっくりと地面に落ちてきたチャッカさんは、体の炎はほんのちょっぴりで、ぷるぷるふるえている。
今のふぶきをあびて弱ってしまったみたいで、ガクッとひざを地面についた。
地面の雪がチャッカさんの炎でとけて水になって、それが体に当たったのかジュワッと音がした。
でもチャッカさんはその水をさける力もないみたいで、足の方の炎がどんどん消えそうになっていく。
「あ! き、消えちゃうよ……!」
自分の体でとかした雪の水が、チャッカさんの炎を消してしまいそうになってる。
チャッカさんの近くに雪があったらあぶない。
そう思ってあわてて手を伸ばすと、チャッカさんの周りの雪がザッとどいて、土の地面が見えるようになった。
「お前……」
地面にひざと手をつきながら、チャッカさんが弱々しくわたしのことを見上げた。
その真っ赤な顔は、信じられないものを見るようだった。
「今のは、お前か……? どうして、オレを助けたんだ。今のオレは、放っときゃ消えたってのに……」
「消えるなんて、そんなのダメだよ。わたし、チャッカさんにも傷付いてなんてほしくないもん」
炎が弱くなったからか、さっきまでの強気な『たいど』はなくなっていた。
わたしはそんなチャッカさんに近付いて、ニッコリ笑って言った。
「ケンカなんて、わたしはしたくないよ。だれにも傷付いてほしくない。みんなで仲良くしようよ」
チャッカさんはわたしのことをポカンとした顔で見て、ぎゅっと唇を噛んだ。
もうわたしたちのことを攻撃する気はなさそうで、その目にはじんわりと涙があふれていた。
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