15 森のお友達2
クロアさんとのお茶が終わって、わたしはまた一人で森に遊びに出かけた。
この森は太陽の光がポカポカしていて、春っぽくてすごしやすい。
それにいろんなところにいろんな種類のお花が元気よく咲いているから、とってもいい香りがする。
そういえば、ミス・フラワー以外にはしゃべるお花に会ってないなぁ。
しゃべるお花とそうじゃないお花のちがいってなんなんだろう。
もしお花がみんなしゃべるんだったら、『さぞかし』にぎやかで、きれいで楽しそうなのに。
ミス・フラワーがそうだったけど、お花さんがしゃべるとしたら声がきれいそうだな。
きれいな声でみんなでお歌でも歌ったら、きっととっても楽しそう。
そう思って、私よりももっと大きなお花たちに挨拶をしながら歩いてみるけれど、やっぱりお返事はなかった。
ミス・フラワーが特別なお花なのかなぁ。
まぁ、動物さんたちもあんなにおりこうさんなのにおしゃべりはできないしね。
動物さんたちとおしゃべり、してみたいんだけどなぁ。
きっと思ってもみないことを言ってくれると思うし。
森のみんなは、動物さんたちも、草や木や花たちもわたしにとっても優しい。
仲良くしてくれるし、みんな私のお友達。
でも、おしゃべりができないのがわたし的にはちょっとつまんなく思っちゃったりするのです。
だって、わたしだって女の子だもん。おしゃべりが大好きだもん。
レイくんやクロアさんはいっぱいおしゃべりしてくれるけど、でもこうして森に出るとわたしとおしゃべりをしてくれる人はだれもいない。
それがちょっぴり、不満だっだり、そうじゃなかったり……。
でもでも、そんなことよりも森の中には楽しいことや面白いことがいっぱいで、わくわくの方がずっと上。
だからちょっとくらいおしゃべりができなくても、わたしは毎日森を探検するのがやめられないのです。
「今日はなにを見つけられるかな〜」
毎日新しい発見があるから、いくら遊んでもまったくあきない。
るんるん気分で森の中をトコトコ歩いていた、そんな時だった。
大きな草をかき分けながら進んでいると、ずるっと足がすべってしまった。
「ぅわっ……!」
その先はちょっと急な坂になっていたみたいで、わたしは足を滑らせた勢いでその下り坂をずるずるとお尻ですべり落ちた。
でもそこまで急じゃなかったし、高さもそんなになかった。
だからちょっとびっくりしたけれど、すべり台をすべったくらいの気分だった。
尻もちを着いたお尻はちょっと痛かったけど。
お尻をぱんぱんと叩いて土汚れを落としながら立ち上がる。
そんなに泥んこになっていないみたいで一安心。
せっかくのお気に入りのワンピースだし、それにあんまり汚すとお母さんに怒られちゃう。
わたしが滑り落ちた所は少し木が少なくって、かわりにお花が多めだった。
まるで花びらの天井みたいに、わたしの頭の上に沢山のカラフルなお花が広がってる。
太陽の光がそれに重なって、とってもキラキラしていてきれいだ。
「────」
お花に包まれた景色にわたしが見とれていた時、何かが聞こえた。
物音のような、でもだれかの声のような。
森の中には動物も虫もたくさんいるし、物音がすることはへんじゃないんだけど。
でもなんだかわたしは、その物音がとても気になった。
「だれか、いるの?」
ぽつりと声を出してみる。
なんとなく、人がいる気がしたから。
なんていうかこう、『けはい』みたいのを感じる気がしたから。
でも、見渡してみても人はいないし、動物がいるかんじでもない。
わたしのただの気のせいだったのかなぁと思った時。
近くに咲いていたお花がわさわさっと揺れて、小さな音を立てた。
「……やっぱり、だれかいる?」
風が吹いた音とは、たぶん違う。
だれかが近くにいる気がする。
そう思って周りをぐるぐる見回してみるけれど、草や花しか見当たらない。
でも、ぜったいだれかいると思うんだけどなぁ。
怖さちょっぴり、楽しさちょっぴりで、わたしはそのだれかを探してみることにした。
ここで見回していてもしょーがないから、辺りをうろちょろとしてみる。
草や花をかき分けてわたしが歩き回ると、それに合わせたように近くでカサカサと音がした。
近くにいるのかな? それともわたしから逃げれるのかな?
もしかしたら、かくれんぼみたいな感じ?
だれだかわからないその人は、わたしとかくれんぼがしたいのかもしれない。
だからわたしに見えないところにいて、でも見つけてほしいから、音を立ててわたしを誘っているんだ。
そう思ったらさらに見つけたくなって、わたしは辺りを夢中で探し回った。
でもでも、いくら探してもだれも見つからない。
わたしが勝手にいると思って探してるだけで、本当はだれもいないのかなぁ。
けど、わたしにアピールするみたいに物音はちょこちょことするから、きっとだれかはいるはずなんだ。
「こうなったら、絶対みつけるよ……!」
いるかもわからない相手にそう宣言して、わたしはまた辺りを探し回った。
そうしてしばらく『やみくも』に探し続けた時だった。
とある草をかき分けた先に、不自然なところがあった。
パッと見るとなにもないんだけれど、なにもないのに草がぐにゃっとつぶれて歪んでる。
まるでその上になにかがあるみたいに、押しのけられていた。
「…………?」
見逃してしまいそうだったけど、なんだかそれがとっても気になった。
だからおそるおそる、そーっとその何もない場所に手を伸ばしてみる。
すると、指がなんだあったかくてふにっとしたものにぶつかった。
「ひゃっ……!」
「わわわっ…………!」
予想外の感触にわたしは飛び上がってしまった。
でもそんなことよりも、今わたしとはちがう声がした気がして、そっちの方がもっとびっくりした。
何にも見えないけど、ここにだれかいるのかもしれない。
そう思って、今度は両手を伸ばしてみた。
すると、手のひらにもちもちすべすべとした感触が伝わってきた。
あったかくてふにふにしてて、まるで人の肌みたい…………これ、人の顔?
もしかしてわたし、だれかのほっぺをわしわししてる?
そこから手を放して下の方をペタペタしてみると、たしかに人の体みたいなものがある気がする。
何にも見えないけど、もしかしてここに人がいる!?
「あの、えっと……そんなペタペタしないでぇ……」
びっくりして色んなところをペチペチ触っていると、急に目の前から声が飛んできた。
さっきちょっぴり聞こえた声とおんなじだ。
わたしと同い年くらいの女の子の声な気がする。
「ご、ごめんなさい! こんなところにだれがいるなんて思わなくて。えっと、あなたはここに
はっきりと声が聞こえてきたから、ちゃんと謝ってから声をかけてみる。
姿の見えない女の子なんて不思議たっぷりだし、何よりだれかとお話できるのが嬉しかった。
見えなくてどこにいるかわからないから、ペタペタ触るのはやめたけど、手があるだろうところに触りながら話す。
「う、うん。わたし、ここに、いるよ。わたしね、ここにいるの……!」
「そうなんだ! じゃあ透明人間さん? 全く、ぜんぜん見えないよ!」
「うん、そうなの。わたし、透明だからだれにも見えないの。だから、だれにも見つけてもらえなくて……」
やっぱり透明人間なんだ!
それなら見ただけで見つけられないのは当たり前だ。
だって透明なんだから。
透明人間さんは少しおどおどしながら、でも必死な感じで言う。
「だからわたし、ずっと一人ぼっちで……だからわたし、あなたに気付いてもらえてうれしくて……だから……」
姿はぜんぜん見えないけれど、なんとなくもじもじしているのはわかる。
そんな言葉につまってる透明人間さんの手を、わたしはぎゅっと握った。
「じゃあ、わたしが見つけたからもう一人じゃないね! お友達になろう!」
「え……!? い、いいの……?」
「当たり前だよ! わたしたちはもうお友達。わたしは花園 アリス。あなたのお名前は?」
透明人間さんは嬉しかったのか恥ずかしかったのか、わたしの手をぎゅーっと握り返してきた。
そして見えないけれど、パッと笑ったような気がした。
「わたしはクリアランス。クリアランス・デフェリア。よろしくね、アリスちゃん」
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