16 森のお友達3
「くりあらん…………クリアちゃんだね!」
ぜんぜん姿が見えないけれど、でもこうして手を握っているから目の前にいることはわかる。
さわれて、お話ができるんだからお顔が見えなくたっておんなじだ。
それに透明人間さんと会えるなんて、ホントにびっくり。
目の前にいるってわかってるのに、こうしてお話してるのに、それでもまるでそこに何もないように見えるんだから不思議でしょーがなかった。
でもでも、透明人間さんだとしてもこうやっておしゃべりできるんなら関係ない。
わたしはすっかりうれしくなっちゃって、にぎった手をぶんぶん振った。
「お友達になれてうれしいなぁ。この森にいる動物さんたちもお友達だけど、でも動物さんだからおしゃべりはできないし。クリアちゃん、いっぱいおしゃべりしよ!」
「う、うん……!」
クリアちゃんはちょっとびっくりした感じで、でもなんだか楽しそうに答えてくれた。
わたしの手を見えない透明な手がしっかりと握りかえしてくる。
わたしたちは手をつなだまま一緒に草の中からはい出て、一緒に近くの木の根元に座り込んだ。
「どうしてクリアちゃんは透明なの? 透明人間さんだから、生まれつき透明なの?」
「ううん、透明になったのは少し前のことで、生まれつきじゃないよ。それにね、わたしは透明人間じゃなくて、魔女なの」
「え、クリアちゃんも魔女なんだ!」
並んで座って体をぴったりとくっつけると、たしかにそこにいるんだってことがよくわかる。
手をつないだまま体をくっつけて、その見えない顔を見ながらわたしは『さっそく』質問した。
「そうなの。だからたぶん、体が透明になっちゃうのは魔法なんだと思うんだけど、でも自分じゃどうすればいいのかわからなくて……」
「それも魔法なんだね。でも、自分でもわからないで使っちゃってるって、大変だね。わたしは魔法がつかえないから、よくわからないけど……」
「アリスちゃんは魔女じゃないの?」
「ううん、ちがう。魔法を使ってみたいなぁとは思うけどね」
「そうなんだ……」
クリアちゃんは少し残念そうな、でもどこか不思議そうな声でポツリと言った。
わたしが同じ魔女だったらいいなって思ったのかもしれない。
魔法は使ってみたいと思うけれど、でも魔女はとっても大変だって聞いたし。
それに魔法使いは魔女にひどいことをするみたいだし。
そう考えると、ただ魔法を使いたいって言うのも、ちょっと『ふきんしん』な気がしてきたり……。
でも、魔法っていう不思議な力の『ゆうわく』にはなかなか勝てない。
この森に来て不思議なものをいろいろ見てきたけれど、でもやっぱり魔法を見るとわくわくしちゃう。
今だって、まったく姿が見えない透明なクリアちゃんとのお話は、わくわくしてしょーがなかった。
「ねぇねぇクリアちゃん。その透明になっちゃう魔法は、体だけなの? 服も透明になっちゃってるの? もしかしてだけど、すっぽんぽんってことはないよね……?」
「ち、ちがうよ……!? ちゃ、ちゃんと服は着てるよぉ! 見えないと思うけど……!」
もしかしてもしかすると、と思っておっかなびっくり聞いてみると、クリアちゃんは早口で答えてきた。
見えないけど、たぶん首をぶんぶん振ってる。
「えっとね、本当は透明になるのは自分の体だけなの。でもわたし、今は魔法で作った服を着てて、これは一緒に透明になっちゃうみたいなの」
「じゃ、普通の服があればそこは透明にならないんだね! そしたら、クリアちゃんがどこにいるのかわかりやすくなるね!」
なら簡単じゃん、と思ったけれど、じゃあどこに服があるんだろうってすぐに気がついた。
わたしは今お着替え持ってないし、それにこんな森の中じゃお洋服屋さんなんてないし。
ううん、もしかしらわたしが知らないだけで、森の中の洋服屋さんなんてステキなものがあるかもしれない。深い森の中にポツンとある木の小屋の、オシャレなお洋服屋さん……!
いろんなヘンテコがつまったこの森なら、そういうのがあったって変じゃない。
そう思ったけれど、そもそもわたしお金持ってなかったよ……。
お金がなきゃ、お店があっても服が買えないや。
「うーん。透明にならない普通の服があれば、クリアちゃんのこともっとよくわかると思ったんだけどなぁ。こうやってくっついてれば隣にいるってことはわかるけど、でもずっとこうしてもいられないしね」
「ありがとうアリスちゃん。でもわたし、もう結構なれてきちゃったから。だれにも見つけてもらえないのはさみしいけど、でも今こうやってアリスちゃんに見つけてもらえて、それにお友達になってくれたし。わたしはそれで十分だよ」
ちょっぴりしょんぼりしたわたしに、クリアちゃんは元気な声で言った。
そもそも、クリアちゃんが透明になっちゃう魔法をわたしがどうにかしてあげれられればいいんだけれど。
でもそれは難しいから、そこにいることがわかるようになるだけでもって、思ったんだけどなぁ。
せっかくお友達になったんだし、手を放しちゃったらどこにいるのかわからなくなっちゃうなんてさみしい。
何かいい方法はないかなぁって考えていた時、わたしはポケットの中のことを思い出した。
すぐにワンピースのポケットに手をつっこんで、赤いリボンがついたヘアゴムを取り出した。
前にお母さんに、「女の子として予備のゴムは持っておきなさい」って言われて、それからいつもポケットの中に一つ入れるようにしてたやつ。
いつもつけてるのはシンプルなやつで、あんまりこういうリボンがついたようなハデなのは使わないんだけど。
でも言われたとおり持っておいてよかった!
「クリアちゃん、これあげるよ! これ赤いリボンがよく目立つから、髪につけたらクリアちゃんがどこにいるかよくわかるでしょ?」
「え……でも、いいの?」
「うん! わたしは今使ってるのがあれば大丈夫だし。それに、せっかくお友達になったんだから、またクリアちゃんがどこにいるのかわからくなっちゃったらいやだしね」
わたしがゴムをクリアちゃんがいる方に向けると、見えない手がそれを受け取ったのがわかった。
クリアちゃんは少しのあいだそのまま動かなくて、ただつないだ手はぎゅーっと力が強くなった。
「アリスちゃん、わたし……すっごくうれしいよ。ありがとう、大切にするね」
それからクリアちゃんは、とってもうれしそうに笑った。
その笑顔が見られたらきっとステキなんだろうなって思いながら、わたしもつられて一緒に笑った。
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