14 森のお友達1
それからわたしは『魔女の森』で楽しい毎日を過ごした。
一日中森の中を探検して回って、不思議なものを見つけたり動物さんたちと遊んだり。
そしてたくさん遊んで疲れたら、神殿にあるふかふかのベッドでぐっすり眠る。
レイくんはちょこちょこどこかへ出掛けてしまうけれど、クロアさんはよくわたしと遊んでくれた。
この森の外がどうなっているのかも気になったけれど、森の中だけでも探検しきれていないから、外へ行っている場合じゃなかった。
『魔女の森』は本当にヘンテコな森なんだ。
色んなものが巨大なことはもう慣れてしまったけれど、それ以外にもわたしの中の普通とは違うことがたくさんあった。
まず、この間のキノコと同じように、この森の植物はみんな動けるということ。
草や木や花、全ての植物は自分の意思で動いて、しかも移動までしてしまう。
だからその日のみんなの気分で森の様子が変わってしまって、何回迷子になりそうになったかわからない。
けど、わたしが神殿に帰ろうと思うとみんな一斉に道を作ってくれるから、本当に迷子になったことはないんだけれど。
あと、この森の動物さんたちはびっくりするくらいおりこうさん。
おしゃべりはできないけれど、わたしの言うことは大体わかってくれるし、いつも誰かしら一緒に遊んでくれる。
森に住む動物さんたちは、もうすっかりわたしのお友達。
でも正直それくらいはもはや普通で、たまにやけに人間っぽい動物がいたりする。
切り株に座ってぷかぷかパイプをふかしている猿がいたり、火を起こして料理みたいなことをしているネズミがいたり、釣竿を持って魚釣りをしている猫がいたり。
妙に動物らしくないというか、人間っぽいというか、びっくりするようなことをしている子というのがいる。
そこまでできるならおしゃべりできたらいいのに、話しかけると返ってくるのは鳴き声だけなのです。
他にも色々ヘンテコに思うことはたくさんあって、毎日が驚きと発見ばかり。
いつも色んなことが起きるものだから、わたしは全くあききることなく毎日を目まぐるしくすごしていた。
不思議なこと、おかしなこと、楽しいこと。それに夢中で、遊ぶのが楽しくて、わたしの頭はそのことでいっぱいだった。
そんなある日のこと。
わたしはクロアさんと一緒に神殿前の木陰で紅茶を飲んでいた。
クロアさんはいつもお昼から少し経つとお茶とお菓子を用意してくれるから、お茶の時間を取るのはほぼ日課になっている。
「レイくんはよくどこかに行っちゃうけど、どこに何しに行ってるの?」
「あらあら、姫様はレイさんがいらっしゃらないとお寂しいですか?」
わたしが質問すると、クロアさんはやわらかくクスクスと笑った。
それがなんだかちょっぴり恥ずかしくて、わたしはあわてて首を横に振った。
「べ、別にそんなんじゃないけど……! クロアさんがいるし、森のみんなはいつも遊んでくれるし。ただ、何をしてるのかなぁーって」
「そうですねぇ。わたくしも詳しくは聞いておりませんが、レイさんは魔女の安寧のために尽力されているのだと思います」
「……?」
少しだけムキになったわたしのことをやんわりと笑い見てから、クロアさんはちょっと難しい言い回しをした。
でもなんとなく、レイくんが魔女のために何かを頑張っているんだってことはわかった。
それを聞いて、わたしはふと思ったことをそのまま口に出した。
「そういえば、わたしまだ自分が何をどうすればいいのか聞いてないよ。ねぇクロアさん、わたしって何をすれば良いの?」
「姫様にお力をお貸し頂く時は必ず参ります。しかし、いつどのようにかはわたくしにもわかりません。その時はレイさんからお声がかかるでしょう」
「そうなの? わたし、毎日好きに遊んでるだけだから、こんなんで良いのかなぁって思って」
レイくんにはたっぷり好きなだけ遊びなって言われたから、わたしは思いのままに遊んでいるけれど。
でもレイくんは力を貸して欲しくてわたしをここに連れてきたわけだし。
このままで良いのかなぁなんて思ってしまった。
そんなわたしを見て、クロアさんは優しく笑った。
「姫様は大変お優しくいらっしゃる。大丈夫ですよ。今は思うように、気の向くまま心の向くままお過ごし下さい。あなた様が日々を楽しく過ごすことこそが、今のわたくしたちの望みですよ」
クロアさんはニコニコと笑いながら、わたしにとても優しい目を向けてくる。
優しくてあったかくて、とってもうれしい気分になる目。
わたしはクロアさんのこのやわらかい顔が好き。
「本当? それで大丈夫かなぁ?」
「もちろんですとも。それにわたくし個人と致しましては、こうして日々姫様と穏やかな時間を過ごすことができるのが、何よりも幸福な時間なのです」
そう言ってクロアさんはわたしのほっぺをつんと突いた。
「あなた様のように愛らしく、そして優しいお方のそばで過ごす日々は、わたくしにとって輝きに満ちております。わたくしは正直、この日々が続けばそれで満足とすら思ってしまっております」
「おおげさだよ〜。わたしもクロアさんとお茶飲んだりお菓子食べたりするの好きだけどね。ぎゅっとするとあったかくてやわらかくて、それに良い匂いするし」
手をかいくぐってその胸に抱き付くと、クロアさんはまぁと声を上げた。
でもすぐにぎゅぅっとやわらかく抱きしめてくれた。
「わたくしは幸せなのです。今わたくしは、一番幸福を感じているのです。わたくしには今まで、こんな満ち足りた日々などありませんでしたから」
かみしめるように言うクロアさんは、きゅうきゅうとわたしを抱きしめてくれる。
まるでお母さんみたいに温かくてやわらかいクロアさん。
わたしはそんなクロアさんに抱きしめられるのがとっても好き。
「ですから姫様。あなた様は今、ただいてくださるだけで良いのです。そして毎日を豊かに、輝かしく過ごしていただければ。今はそれが、わたくしたちの支えになります」
「うーんと……わかった! まだまだ不思議なこといっぱいあるし、もっと色々探検してるよ!」
クロアさんが良いって言うんだから、きっと良いんだ。
とりあえず今は目の前に広がるたくさんの不思議に色々挑戦しよう。
この森にいたら、時間がいくらあっても足りないくらいだ。
わたしが元気よく応えると、クロアさんはやわらかく頷いた。
「ですが、無用心は禁物です。この森にあなた様へ害をなす輩はいないはずですが……それでも何があるかはわかりません。きちんと、気をつけてお過ごし下さいね」
「うん、わかってるよ!」
本当にお母さんみたいなことを言うクロアさん。
ちょっとお小言っぽいけれど、でも心配と優しさからくる言葉だってことはよくわかる。
わたしが素直に頷くと、クロアさんはニッコリと微笑んで頭を撫でてくれた。
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