7 学校にいる魔女
「そういえばレイくん、この学校に他に知り合いがいるって言ってたけど、その人も魔女?」
「うん、そうだよ」
強引に話題を変えた私に、レイくんのは平然と頷いた。
「別に会っていくつもりはないけどね。しばらく会っていなかったし、今更僕が顔を出しても迷惑がるだろうからね」
「この学校、他にも魔女いたんだ……」
「いるよ。魔女はウィルスの感染によって広がるものだからね。一つの場所に何人かの魔女がいることは、別に不思議じゃないさ」
「それはつまり、誰かが感染させてしまったってこと?」
「感染そのものは故意にできることじゃないから、その表現は適切じゃないけれど。まぁその可能性も捨てきれない。いくら人前で魔法を使わなければ、感染を抑えられるかもしれないからといって、それで百パーセント防げるわけじゃないからね。あれは結局、自分たちの気持ちの問題だ」
魔女である以上、誰かを感染させてしまうリスクは必ず付いて回る。
それを私たちは肝に命じておかないといけない。
そう意味では、私たちは常に罪を犯しているのかもしれない。
「ただ僕たち魔女も人だ。生きている以上、自由に生きる権利がある。『魔女ウィルス』は未だ解明されていることがあまりにも少ないし、そもそも感染方法自体が不明なんだ。気をつける術が、そもそも存在しないんだよ。それでも可能な限り感染を抑えようとしてる。その意識が大事なんだと僕は思うよ」
私も誰かを感染させてしまうかもしれない。
それは、私の大切な人かもしれない。
その恐怖もまた、常について回るもの。
そう考えると、今こうやって普段通りの生活を続けようとしていることが、正しいことなのか不安になってくる。
「そんな暗い顔しないで。アリスちゃんは笑顔の方が可愛いよ」
「そういうのいいから! ────そんなことより、せっかくの魔女の知り合いなのに、会わなくて本当にいいの?」
「今日ここにきたのは、アリスちゃんに会うためだからね。それに、きっとあの子は僕に会ったって良い顔はしないよ」
私としては、魔女の知り合いは少しでも多ければ心強い。
実際もし氷室さんがいなかったら、私は今よりもかなり不安だったと思う。
同じ境遇の人というのは、人間には必要だと思う。
「それに、僕には他に仲間がいるからね。わざわざ嫌な思いをさせてまで会うほどでもないんだよ」
「そういうものなのか……」
どちらにしても、友達には会いたいと私は思うけれど、でも感じ方は人それぞれだし、あまり言っても仕方がないか。無理に会う必要だってないんだから。
魔女になったばかりの私には、魔女同士の事情というものもまだよくわからないし。
「さて、僕はそろそろ行こうかな。アリスちゃんのせっかくのお昼休みを、これ以上潰しちゃうのも悪いし。次はデートに誘いにくるよ」
「できれば、周りに迷惑のかからない会い方にしてくれると助かるんだけど」
「善処するよ。アリスちゃんに嫌われたくないからね」
すっと立ち上がって、レイくんは朗らかに微笑んだ。
そして、やっぱり私をデートに誘う気満々だった。
私もここできっぱりと断れば良いのに、レイくんを相手にすると、どうもはっきりとは言えなかった。
「多分またすぐ会いにくるよ。僕はアリスちゃんにぞっこんだからね」
「そういうこと言ってると、本当に嫌いになるからね」
今回のことを見ると、本当にすぐに会いにくるかもしれない。下手すれば今日中に。
このモーレツなアピールが、どこかうざったく思えないのはなんでだろう。
顔、なのかな。結局美形は正義ってこと?
自分でもよくわからなかった。
そんな時、物凄い音を立てて扉が開かれた。
壁に叩きつけられてバウンドした扉を、もう一度押し開いた音がして、誰かが勢いよく飛び込んで来た。
「レイ! どうしてあんたがこんな所に────」
その人はレイくんに向かって叫びながらも、私の姿を見て愕然とした顔で言葉を詰まらせた。
「アリスちゃん……どうして……」
それは善子さんだった。
正くんのお姉さんで、私の一学年上の先輩の
レイくんに激昂するように飛び込んで来た善子さんは、けれど予想外の私の存在に、完全にその勢いを失っていた。
私は何が起こったのかわからず、ただ善子さんとレイくんを交互に見ることしかできなかった。
当の本人であるレイくんは、この状況にも関わらず、普段通りの余裕を持った表情で微笑んでいた。
「やあ善子ちゃん。君に会うつもりはなかったんだけれど、元気そうで何よりだよ」
「レイくんの知り合いって、もしかして善子さんのこと……?」
「そうだよ。アリスちゃんも彼女のこと知ってたんだ。それは奇遇だね」
さも当然のようにレイくんは頷くけれど、私はその先のことで頭がいっぱいだった。
善子さんがレイくんの言っていた知り合いだということはつまり。
善子さんは、魔女だということになってしまうから。
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