スタンフォード監獄実験 1
『
納税、勤労、そして『
もちろん義務があるのだから権利もある。
『集合体』の中で呼吸できる権利だ。
♢♢♢
『集合体』に侵入した時と同じ手順で外に一旦出るため、サガイ夫妻の拠点に戻る。
そのサガイは拠点である雑居ビルの3階に昇り、窓の整備をしていた。
なぜそれを拠点に来たぼくがすぐに判ったかと言うと、サガイはビルの外壁に直に張り付いていたからだ。
自前の鉤爪を壁に引っ掛けて、安全綱もなしにビルの外壁を歩いている。
少し悩んだが、気にせず建物に入ってしまうことにした。ぼくが話しかけたせいで気が散って、落下でもされたら目も当てられない。
タニヤに連絡を入れておくだけでも不都合はないだろう。
そのタニヤは1階で掃除をしていた。
「ありゃサトミ! もう戻ってきたの?」
「ソラをススキに預けた。行ってくる」
枝はねの酷いホウキと、もうずっとワックスとは無縁のタイル張りの床から目を離し、こちらを見てくる。
ホウキもそうだが、ワックスなんて最近は市場でも見かけない。
「あんたが持ってきた物は2階のいつもの場所に置いてあるからね」
「助かる。ソラの服だが、やはり何か対価は支払った方がいいと思った。できれば今回の鹵獲品の中から選んで欲しい」
「いいや、要らないよ」
提案が断られてしまった。
タニヤは普段なら、夫であるサガイが無許可で酒を飲むだけでも烈火のごとく怒る
ぶっちゃけ少し不気味だった。
「理由を聞かせてくれないか」
「理由? サトミは難しいこと聞くねえ。あの子が可愛かったから……じゃ、ダメかい?」
「それだけではあまり納得ができない」
「ならアンタ風に言うと、先行投資か必要経費ってヤツかね」
「どういうことだ?」
「あの子、アンタが拾ったってことは『
ソラが、ぼく達と同じように?
『廃品回収』は、外のゴミという名の再利用できる資源を漁って拾い集め、『集合体』内でも主に『軍』あたりから疎まれ、周辺の『
正直に言うと、その可能性についてはほとんど考えていなかった。
むしろ、完全に考慮の外にあった。
「いや、ソラは『廃品回収』にはならない。いずれ何かしらの仕事に就くにしても、もっと生きやすい労働はいくつもある」
「それは本人の言葉かい?」
「ぼくの言葉だが」
タニヤは掃除の手を止め、ホウキの頭にあごを載せた。
「生きやすい仕事なんて言っても、結局何になるかは本人の心次第だと思うよ、サトミ。決して放任しろって言ってるつもりじゃあないけどね? ただ、あの子はなんとなく『廃品回収』になる気がしたんだ」
いわゆるカンなのだろうか、それは。
『軍』ならまだしも、『廃品回収』になりたいという女性は非常に少ない。当たり前だ。
男よりも女は体力が低い傾向にあるから長時間の探索には向いていないし、戦闘になった時に不利になりやすい。
なにより、『略奪者』に殺されたならそこで終われるが、もし捕縛されたらどうなるかは想像に難くない。男ですら捕まって奴隷扱いをされる危険性があるのだから。
他にも理由はいくつも思いつくが、とにかくそのどれもがあの子を『廃品回収』にするという考えからぼくを遠ざけるものだった。
「こんな仕事、進んでなるもんじゃあないけどねえ。ま、他の所に行ったら行ったで、その所とのパイプができたと前向きに考えるさ」
「判った。そうしてくれ」
ビル2階の資材置き場に立ち寄り、価値のない品を適当に見繕って持ち出す。
『軍』に報告する際の偽の収穫品、証拠物だ。
そこに、一番の戦闘の証拠となる
こちらで差し押さえてしまうことも考えたが、話の信憑性を上げるためにはこれが最も適しているため、私物化は断念する。
ぼくはタニヤに言われたことを考えながら、店の裏手から『集合体』の外に出た。
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